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【長編小説】胡蝶の舞姫

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【小説】胡蝶の舞姫3.

【小説】胡蝶の舞姫3.

【3.弘前の桜】

 先の大戦で空襲の被害を免れた弘前の街は戦前の風景がそのまま残る。弘前城のお膝元、弘前公園の桜並木は空気を薄紅に染め、人々の目を楽しませてくれていた。

「松平君って、無理に男の子を演じてるみたい」
「え」

 中学一年生になったばかりの頃、写生会で訪れた春の弘前公園での出来事だった。背後から掛けられた言葉に銀平は飛び上がらんばかりに驚いた。

 不意の事だったから、というのも

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【小説】胡蝶の舞姫⒉

【小説】胡蝶の舞姫⒉

【2.昭和33年3月 弘前 エミー】

 屋根裏部屋に駆け込んだ恵美子は、布団で眠る母の元に駆け寄った。

「お母さん!」

 呼びかけに反応しない母の顔は、裸電球の薄暗い明かりの下でも、もう二度と目は開けない事を恵美子に語り掛けていた。眠るような、死顔だった。

 そっと母の手を取った恵美子の目から涙が溢れる。痩せて、骨と皮だけのようになってしまった母の手を頬に添えた。

 お母さん、あなたは、

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【小説】胡蝶の舞姫1.

【小説】胡蝶の舞姫1.

【あらすじ】
戦後の東京。二人の混血児が激動の昭和を駆け抜ける。
戦下を生き抜く2人の日系アメリカ人女性が、もう一つの祖国でそれぞれ、絵美子と満理子という女の子を産み落とした。
似た境遇、同い年の2人の混血児、エミーとマリーだったが、2人が歩んだ道はあまりにも違った。

東京五輪に湧く昭和30年代の東京。
エミコは謎の紳士、恵三に助けられて芸者の道を歩み始め、マリコはストリップ劇場の若き小屋主、巽

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