![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141756063/rectangle_large_type_2_b7320dc1201c94b09909ff92af29df07.png?width=800)
Photo by
yoshino_r
【小説】烏有へお還り 第27話
第27話
12月6日 雪
初めて「死にたい」と願ったのは、小学一年生の時だった。学校の帰りに、当時住んでいた集合住宅の五階から下を見下ろした。
住んでいたのはもっと下の階なのに、わざわざ最上の五階まで上った。それをすれば「自殺」になることも知っていた。
死んで楽になりたい。死にたい。
どうしてあの時、飛び降りておかなかったのか。
小学一年生が五階から転落すれば、きっと「事故」として片付けられた。
傷つけてしまう人も、もっと少なくて済んだ。
生き長らえるほど、死ぬのが難しくなる。
ちゃんとひと思いにやれるのか。
もし怖くなって、中途半端に自分を傷つけるだけで終わったら、きっとその後の人生は今よりも地獄になる。
怖くて踏み出せない。
ほらね。どうしてあの時、飛び降りておかなかったのか。
自殺は悪いこと。
その考えが、ずっとわたしを押し留めていた。
でも気づいた。
わたしは「死にたい」んじゃない。
「生まれてきたくなかった」んだ。
母がわたしを生まないでくれたらよかった。
そうすれば、わたしはこんな苦しみを味わわずに済んだ。
捨てるんじゃない。
いらなかっただけ。
だからもう怖くない。
鴨居にロープを渡して首をかけようと思ったら、予想以上に身体が弱っていてできなかった。
けれども、洗面所に剃刀があることを思い出した。
よかった、やっと終われる。
──これ以上の不幸を呼び込んではいけない。負の連鎖は断ち切らなければいけない。
吉川さん、ありがとう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?