【朗読劇】内股膏薬 第2話
第2話
胡桃 「祐輔さん・・・まさか、あたしのこと騙してたんですか・・・?」
祐輔 「違うよ、違うって、違うんだよ。僕の言葉、信じてもらえないのも仕方がないよね。僕は妻がいながら、きみとつき合い続けてきた、世間から見たら最低の男だ。でもさ、胡桃ちゃんのことを思う気持ちは本物なんだ」
胡桃 「それならここを出て、あたしと一緒に暮らし始めましょ」
祐輔 「いや、だからそれは・・・今日のところは、日を改めて・・・」
胡桃 「祐輔さぁん! 約束したじゃないですか!」
雅恵 「ちょっと! 待ちなさいよ!」
雅恵 登場
祐輔 「ま、雅恵さん・・・」
雅恵 「あーら、弁護士さんも来てるのね。ちょうどよかったわ」
典子 「お待ちしておりました。弁護士の内田と申します。どうぞこちらへ」
雅恵 「祐輔、あんたまた悪い癖が出たみたいね。耀子さんもお気の毒。もともとはあの人が祐輔を奪って、わたしたちの結婚生活を壊したっていうのにね。これこそ『因果応報』ってやつじゃない?」
祐輔 「・・・雅恵さん、今日はどうしてここに?」
雅恵 「あんたが大事な約束をわすれちゃったんじゃないかって心配で。まさか覚えてないなんて言わないわよね」
祐輔 「えっと・・・なんだろう。ごめん、雅恵さん。教えて」
雅恵 「忘れたの? もう、仕方ないわねえ・・・今年のわたしの誕生日には、一緒に温泉旅行に行こうって言ったじゃないの。だからわたし、迎えにきてあげたの。ねえ、もう旅館も予約してあるのよ」
胡桃 「ちょっと待ってください! いきなり来て、あなた誰なんですか?」
典子 「念のため確認させていただきますが、あなたはこちらにいらっしゃる桜井祐輔さんの、前の奥さまでいらっしゃいますよね」
雅恵 「ええそうです。旧姓は桜井雅恵。正真正銘、この人の元妻です」
胡桃 「元奥さん!? この人が、ですか?」
雅恵 「そうよ。知らなかった? わたしたちは元夫婦。それだけじゃないわ。祐輔とわたしの関係はね、離婚した後もずっと続いていたってわけ」
典子 「そして、桜井祐輔さんは今年中に雅恵さんと結婚するという約束をした。こちら、お間違えないでしょうか」
祐輔 「お、お、お間違えというか、あの、ちょっとした言葉のあやっていうか、漠然とした願望っていうか。ほら、会社に向かう満員電車でさ、窓の外の飛行機を見て『あれに乗ってそのまま外国へ行っちゃいたい!』なーんて思うことあるじゃないですか! あんな感じかな」
雅恵 「なにそれ! あたしへの気持ちはその程度だってこと? 馬鹿にしないでよ!」
祐輔 「違う違う、雅恵さんへの気持ちは本物だよ! 僕はこれまで雅恵さんのこと、うんと大切にしてきたじゃない」
雅恵 「それならどうしてもうひとり女がいるのよ! 話が違うでしょ!」
胡桃 「あたしだってこんなの聞いてません! 祐輔さんは、奥さんを裏切るのがつらいって言ってたのに、前の奥さんとも浮気してたなんて!」
祐輔 「あの、こ、これはその・・・違うんだよ。あの、つまりさ、あの・・・」
胡桃 「わかっています。悪いのは、祐輔さんじゃありません」
雅恵 「そうね。こうなったのには、耀子さんに問題があるとしか思えないわ」
胡桃 「そうですよ! 原因は奥さまです。奥さまがしっかりしていないから、祐輔さんが迷ってしまったんです」
雅恵 「祐輔、ちょっと電話貸してよ。耀子さんと話したいことがあるの」
胡桃 「あたしも、この際だから奥さまに言いたいことがあります」
祐輔 「ちょっと待ってよ! 耀子は悪くないよ。悪いのは全部僕だよ。妻がいながらきみたちを好きになってしまった、僕が悪いんだ!」
雅恵 「あんたは黙ってなさい!」
胡桃 「祐輔さんは黙っててください! 今は女同士の話をしてるんです!」
八重 「待って下さい!」
八重 登場
祐輔 「八重さん!」
八重 「娘は悪くありません・・・娘は悪くないんです。わたくしは耀子の母親、八重と申します。このたびはとんだことに・・・」
典子 「八重さん、こちらにどうぞ」
八重 「申し訳ございません、突然押しかけてしまって」
典子 「とんでもありません」
八重 「いてもたってもいられなくて」
典子 「お待ちしておりました。弁護士の内田と申します。確認させて頂きますが、あなたは耀子さんのお母さまでいらっしゃいますね」
八重 「ええ、そうです」
祐輔 「すみません、八重さん。こ、これはその、あのぅ」
八重 「祐輔さん! これは一体どういうことなの?」
祐輔 「すみません・・・」
八重 「約束が違うじゃありませんの!」
胡桃 「約束? 奥さまのお母さまと・・・ですか?」
祐輔 「八重さん! すみません、あの、その話はまた後で・・・」
八重 「祐輔さん、わたくしもう黙っていられませんわ!」
祐輔 「八重さん八重さん! ちょっと待って!」
八重 「(思い切って)娘と別れて、わたくしと結婚するって・・・」
胡桃・雅恵 「ええ!?」
八重 「そう言ってくれましたわよね!」
間
胡桃 「うそ(呆然と)」
雅恵 「ちょっと祐輔、本当なの・・・(呆然と)」
胡桃 「信じられない! アリですか!? 義理のお母さんですよ!?」
八重 「この年でわたくしも恥ずかしいけれど・・・。でも祐輔さんは言ってくれたの。わたくしと一緒にいる時は、甘えることができるって」
雅恵 「甘えるって・・・ちょっと想像しちゃったじゃない。あんた、なにしてんのよ」
典子 「そして、桜井祐輔さんは今年中に八重さんと結婚するという約束をした。こちら、お間違えないでしょうか」
祐輔 「お、お、お、お間違えというか、あの、ちょっとした言葉のあやっていうか。ほらほら、会社に向かう満員電車でさ・・・・」
雅恵 「(遮る)それはもういいから!」
胡桃 「祐輔さん、これはちょっとありえません・・・」
八重 「悪いのはわたくしです! 祐輔さんを本気で好きになってしまったのだから」
祐輔 「八重さん、ストップストップ! ね、みなさん落ち着きましょう!」
雅恵 「落ち着きのないのはあんたでしょうが!」
胡桃 「祐輔さん、ひどい!」
祐輔 「胡桃ちゃん、雅恵さん・・・」