偽神の帰還 - 第一章「新神の即位」
「金は全てを解決する。それが僕の信じる唯一の神だ。」
その言葉を、人見広介は心の中で何度も反芻した。
軽蔑と自嘲が混ざり合うその声は、彼自身が選んだ道を痛烈に皮肉るものだった。
まだ若干26歳の彼は、ヨミノアカリ教というカルト宗教の事実上のトップだった。形式上のリーダーは亡き教祖の息子だが、彼はまだ18歳、宗教についての理解も浅く、何より、金に目がくらんだ広介の手の平で転がされているだけだった。
それはともかく、広介の部屋には訪れる人が一人いた。彼の名は篠山、ヨミノアカリ教の広報部門の責任者で、広介の大学時代からの友人だ。広介は彼を信頼していたが、信仰心の点では完全に信じていなかった。篠山が来た理由は、新神の即位式について話し合うためだった。
新神、それは教祖の息子、彼の名はプラカーシャデーヴ。教団では、彼を神の化身として讃え、プラカーシャデーヴ自身もそれを信じて疑わなかった。広介はその儀式の演出を任されていたが、彼にとってそれはただの煩わしい儀式でしかなかった。
即位式の話を終え、二人は無言で広介の部屋を眺めた。豪華な装飾、高級な家具、誰もが羨むような豪奢な生活。それら全ては、広介が信じる神、金がもたらしてくれたものだった。
しかし、その裏には様々な罪が隠れていた。信者から巻き上げたお金、脅迫、詐欺、時には暴力。信者たちは広介を讃え、彼が全てを運営している事実を知らず、彼の言葉を神の啓示と信じて疑わなかった。しかし、広介はそれを知りつつ、自分の欲望のためにそれを利用し続けていた。
広介が目指していたのはただひとつ、金だけだった。人々の心を動かし、操り、信者を増やし、さらには教団の資産を自分のものにしていった。広介の唯一の神は金であり、そのためならば何もかもを犠牲にしてでも手に入れようとしていた。それが広介の信念だった。
しかし、その行動は彼を一部の信者から疑念を持たれる存在にしてしまった。特に彼がかつて想いを寄せていた彩香からは、広介への嫉妬心と憎悪を隠すことなく矛先を向けられていた。彩香は広介が真の信仰心を持たず、それにもかかわらず教団の中枢にいることを見て不快感を覚えていた。その怒りは彼に向けられていた。彼女との出会いがきっかけで広介は教団に入信したが、今では彼女は広介のことを信用できないと感じていた。
広介はその怒りを察することができたが、彼はそれを無視し、金の力を信じて突き進むことを選んだ。その信念が彼をどこへ導くのか、彼自身もまだ知らなかった。
「それでも、君のためならばなんだってやれるよ。」
広介が語ったその言葉は、彼が信じる神である金と、彼がかつて愛していた彩香への想いが交錯した一言だった。
こうして、広介の物語は始まった。これは金と信仰、欲望と愛情が交錯する物語であり、彼が人間として何を得、何を失うのか、それを見つめる物語でもある。広介が信じる神、金という全てを解決する力が、彼をどこへ導くのか。それを見届けるために、この物語は続いていく。
広場に響く信者たちの一斉の唱和。その声は一つになり、言葉ではなく、ただただ執拗な唸り声になっていた。それはまるで、人間の意志を超えた何かが彼らを支配しているかのようだった。
その異様な光景の中心に立つのは、広介だった。彼の周りでは、信者たちが神々しい光を放つ金の像を崇め、その神々しさを讃えていた。広介はその全てを眺めながら、自身が信じる唯一の神に思いを馳せていた。
広介の目の前に広がっているのは、彼が信じる神を具現化したものだった。彼が信じる神とは金であり、その全てを形にしたものが目の前にある。それを眺めることで、広介は自身の信念を再確認していた。
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