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30歳シングル女性建築士が自邸を構える話-4

 前回の投稿では、リノベーション対象である実家のマンションについてふれました。この記事では、自邸の設計コンセプトについて述べたいと思います。コンセプトは、大きくは以下の2つです。

家族向け住戸のマイナーチェンジ

 このリノベーションの目的は、自分ひとりのための住まいづくりです。いっぽう、設計の下地となる実家のマンションは4LDKという家族向けの住戸となっているため、少人数世帯向けの住戸へマイナーチェンジを行う必要がありました。

 まず、一般に寝室として利用されることが多い個室は、4つも必要ありません。客用を考慮しても、せいぜい2つくらいあれば十分です。nLDK化のために細かく刻まれがちな個室は、統合・再編して使い勝手をよくすることにしました。

平面図

 また、家人が各々で収納を管理できるよう個室にそれぞれ設けられていたクローゼットや押入れはなくし、一か所で管理可能なウォークインクローゼット(WIC)を採用しました。実際の使い勝手についてはこれから住んでみてのお楽しみですが、これまでの住宅設計で何度も要望され、また提案してきた手法ですので、自分で使って確かめみたいという気持ちもあります。機能的な用途であるWICは水回りから近く、かつ暗くなりがちな住戸の中央部に設けることで、衣類の管理・着脱のための動線をスムーズにし、光・風の良好な環境を他の居室のために明け渡すことができました。

 室の数を減らし、収納を1か所にまとめることはほかに様々なメリットもあります。間仕切壁が不要となれば、仕上げ面積やその下地のための材工費が減りますし、室や収納のための建具枚数も減るのでコストを抑えることにつながります。また収納が減ると(と言うと印象はあまりよくないかもしれませんが笑)その代わりに壁面が生まるので、家具や設備機器の配置が可能になり、模様替えによるアレンジがしやすくなります。なので、なくしてしまった収納が足りないとなれば、置き家具で対応したりできますし、なんなら後々追加工事で作ってしまうこともできます。

 なお予算の都合上、図面下部の寝室については今回のリノベーションの対象外としました。


可変性のある建築とする

 実は設計をする中で、「ここはこうしよう!」と決めきれなかった部分がかなりありました。ですが時間や予算の制約があるため、「いったんここはこうしておくか」と仕様を決めきり、プロジェクトを前に進める必要があります。そこで、後から変えたくなったら変えられるよう、手を加えやすいような工夫をしています。

 それは見切りを多用すること

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 建築家による設計や、工務店が建てる住宅でも、見切り(素材同士が接するところに付けるもので、枠や巾木などを総称して言います)をほとんど見せないことを良しとする設計手法は、頻繁に見受けられるところです。空間を野暮ったくせずスカっとみせ、石膏ボードなどの建材の彫塑性を活かした大壁的な建築とすることができ、見切りの少ないデザインはおそらく多くの施主にも好まれているのではないかと思います。

 いっぽうそれらの設計意図を汲んで美しい空間に仕上げるためには、相当の施工スキルが必要です。なぜなら建築の施工はほとんどが職人の手作業で、構造の種類にかかわらず多少は水平垂直の狂いがあるなか施工しなければならないのです。さらに素材の膨張収縮に順応し、粗がないように仕上げるためには、設計者が見切りを有効に活用することが手法の一つとなり得ます。

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 特に今回はリノベーションであるため、工事をしない箇所と工事をする箇所との取り合い部がどうしても発生し、既存部との意匠のつじつま合わせが必要です。また、室や床・壁・天井の面ごとに見切りを設けることで、あとあと一部の仕上げを変えたい・補修したいとなったときの対応が容易になります。これは設計者と使用者が同じ人物であるための発想かもしれません。

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