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完璧な世界

高層ビルが立ち並ぶ未来都市、ネオトーキョー。そこでは全ての市民が幸福で、犯罪も貧困も存在しないと言われていた。

山田太郎は、毎朝5時に起床し、6時には職場に到着する。彼の仕事は、他の市民の幸福度を測定することだ。

「おはようございます、山田さん」AIアシスタントの声が響く。「今日の幸福指数は99.9%です。素晴らしい一日になりますよ」

太郎は微笑んだ。彼の顔の筋肉は、笑顔を作るよう訓練されている。

昼食時、同僚の田中花子が近づいてきた。「山田さん、昨日の夜、窓の外を見たんです。星が…」

太郎は慌てて彼女の口を押さえた。「田中さん、そんな危険な考えは捨てましょう。幸福な市民は、窓の外なんて見ません」

花子は頷いた。彼女の目には、一瞬だけ悲しみが宿ったように見えた。しかし、すぐに笑顔に戻った。

帰宅後、太郎はテレビをつけた。「本日も幸福指数は99.9%を記録しました。ネオトーキョーは完璧な世界です」

太郎は満足げに頷いた。彼は幸せだった。幸せでなければならなかった。

窓の外では、星空が輝いていた。しかし、誰もそれを見ることはなかった。

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