第38話「面倒見の良い人」

「…ったく!

なぁ〜にが、”自信が服を着て歩いてる”、だ!

そんなやつ…ほんとにいたら、”イタイやつ”だろ…!」

ついさっき、ハナ隊長とサクヤ隊長に、言われたこと。

ノヴァン隊長は…

2人と別れて、俺と2人だけになった今でも。

まだ…気にしているようだった。

「まあ…。自信があるのは、良いことだと思いますよ。」

「お前それ…フォローになってないからな?

…つーかむしろ、肯定してんだろっ!」

そう言って、目の前に立っていたノヴァン隊長は…

…俺の視界から、消えて。

ーーぐいっ!!

「うわぁ!!!」

気付いたら…

…視界いっぱいに、青空が、広がっていた。

「ワハハ!俺の勝ちぃ〜!!!」

その青空に、嬉しそうなノヴァン隊長の顔が。
上から覗き込むように、入ってくる。

俺は、一瞬のうちに…投げ飛ばされて。
芝生の上に、仰向けに…転がされていた。

やっぱり…

「…大人げない。」

俺は、そう…つぶやかずには、いられなかった。

なんで
こんなことになっているのかというと…

さっきまでいた、あの…薄暗い部屋は、やっぱり地下室で。

俺の…”入隊宣言”も、終わり。
そこから出た、隊長3人と、俺。

これから…どうするのかと、思っていたら…

「よっし!朝の運動がてら、早速…

…修行するぞ、ヨウ!」

そう、元気よく告げたノヴァン隊長に連れられて。

地下室を出た足で…そのまま建物の外、すぐ目の前にある、
公園のような…芝生の広がる場所に来ていた。

「俺を倒すつもりで…自信持って、向かってこいっ!!!

…あ!自信と言えば…!さっきのあいつらさぁ〜!!!…」

…とまあ、こんな感じで。

組手の最中に、話しかけられ…。

冒頭のやり取りを経て…

…一瞬で、芝生に投げ飛ばされた、俺。

「大人げなく…ないっ!

戦いとは、常に厳しいものなのだよ。」

ハハハと、機嫌よく笑っているノヴァン隊長を、起き上がりながら…改めて見る。

(瞳の色…変わって、ないな。)

つまり…

チカラは、使っていない。

それなのに…

(…動きを、目で…追えなかった。)

チカラとは関係なく…身のこなしの問題なのか?

いや…それとも…瞳の色が変わらずに、チカラを…?

そんなことを、考えていると

「ヨウの実力は、今のでだいたい分かったな!」

「…へっ?今ので!?」

「おう、十分!

…まだまだ、弱っちいな!」

また、嬉しそうに笑っている。そして…

「お前は…

…この俺、”タケト・ノヴァン”が率いる、

特別な人間しか入れない…”特色隊”の、一員になるんだ。

もっともっと、強くなってもらわないと、俺が困んだよ〜!

ま!これから毎日、たっっぷりしごいてやるからな!覚悟、しとけよ?」

俺は、さらっと…大事なことを、言われた気がした。

「タケト・ノヴァン隊長の…特色、隊?」

「おお、そうだぜ!

知ってると思うが…カラーズは、大きく分けて…”暖色”か、”寒色”か、だ。

厳密には中性色…なんてのもあるけど。
ま、だいたいのカラーズは近い色で…暖色か寒色かに、分類される。

ただ…

…そんな、一般的な2択に、分けられない色。

そんな特別なカラーズを持つものだけが…俺の、”特色隊”に、入れるのだっ!!」

ビシッと、俺を指差して。

ノヴァン隊長が、キメ顔のまま、続ける。

「ちなみに…

…50人くらいいるブラックアビスで、

特色隊は…俺と、お前だけだ!どうだ、光栄だろっ?」

ノヴァン隊長と…

「…俺だけっ!?」

嬉しそうなノヴァン隊長とは対称的に…

俺は、びっくりしたまま。その場に…固まってしまった。

「なんだよ、そのリアクション!もっと嬉しそうにしろよ〜。」

実はさっき…

…地下室を、出た時に。

前を歩いていた俺と、ノヴァン隊長の…すぐ、後ろ。

ハナ隊長とサクヤ隊長の会話。
偶然耳に入ってきた、その会話を思い出す…

『これで、新しく入隊する子、4人…ってわけね。』

『えぇ。ヨウ君以外の3人のうち…

発現者の2人は、僕と…ハナさんの部隊に1人ずつ、ですね。』

『そうね〜。どの班に、配属してもらおうかな〜。』

『僕は…、ひとまず、僕の班に入ってもらおうかな。』

『うちに来る子は…面倒見が良くて、優しい子の多い班に、しようかな。』

…なんて話が。

外に出るまで…盗み聞こえてきていた。

要するに…

”部隊”の中で、さらに細かく…少人数の班に、分かれているらしく。

だから…俺も…

「面倒見の良い…優しい先輩と…同じ班って…。」

(…思って…たのに!)

つい、正直に思ったことが。
最初の部分が…口に、出てしまっていた。

俺の、心の叫びを聞いた、ノヴァン隊長は…

「はぁ?

面倒見の良い…優しい先輩と…同じ班?

それって…

…俺のこと?ほんとのことだけど、照れるわぁ〜。」

…盛大に、勘違い…してくれた。

(やっぱり…”自信が服を着て歩いてる”な…。)

今回は、その自信に助けられた…と思いつつ。

この、優秀だけど…どこか子どもっぽい隊長と…

(2人きりで…大丈夫、かな?)

少しだけ、不安を覚えながらも…

「あの…”特色隊”ってことは…

俺のカラーズが…”特色”って、ことですか?

っていうか、今の俺のカラーズって…”深紅”?”深緑”?…”黒”?」

ずっと、引っかかっていたことを、質問した。

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