第32話「真っ黒が正義」
「いいえ、ヨウ君…。結論から言うと、君は…”黒の悪魔”では、ありません。
…”今は”…ですが。」
頭の中を、”死”という言葉が巡り始めた時。
突然、サクヤに、そう言われて。
俺は、咄嗟に、伏せていた顔を上げ。
間髪入れずに、その真意を問いただした。
「今は…?それって…どういうことですか!?」
興奮を隠しきれない俺に、冷静なままのサクヤが答える。
「落ち着いてください。
”黒の悪魔”…つまり、”漆黒のチカラ”は。
日光を全く必要としない…つまり、通常では…ありえないチカラです。
闇夜でも使用できる、そのチカラ……いまだ、その多くが、謎に包まれています。
だから…君が何故、あの時、伝承や7年前の【黒の誕生】と同じ姿で、
強大なチカラを解放できたのか…はっきりとは、僕たちにも、分からないんです。」
サクヤは、俺の目をまっすぐ見たまま、話を続ける。
「ただ、推測できるのは…、ヨウ君の”禁色”である”深紅”のチカラと、
アオバ君の”深緑”のチカラが、何かしら影響し合って…ということです。
ひとまず”、”あの日”の、あのチカラは…
”あの瞬間”に、”何かの条件が整って”…偶発的に引き起こされたチカラ、なんです。
なので…、もう一度、あのような特殊な状況にならない限り。君は、”黒の悪魔”では、ないんですよ。」
サクヤは、優しげな表情で微笑み。俺に…言い聞かせるように、話してくれた。
でも…
「推測って…。じゃあ、”今の”俺が、”黒の悪魔”じゃないって…保証は、ないんじゃ…。」
自分で言っていて、もう…わけが分からなかった。
俺は…俺の身体は、一体…。
「ああ!それなら、大丈夫っ!推測っていうか…もう”確実に違う”から。」
黙ってサクヤの後ろで聞いていたノヴァンが。
さっき一瞬見せた、真剣な表情は、どこへやら。
また、例のヘラヘラした様子で、手を挙げて主張した。
「俺ね、そういうの…全〜部、分かっちゃう人なのよ!
そんな俺が”言うんだ、”お前絶対に、黒の悪魔じゃない”、よ。」
ものすごいドヤ顔で。自信満々に、そう告げられた。
「あと、ついでに言うと…
7年前の【黒の誕生】の元凶、要するに、”本物の”黒の悪魔は、
…まだ、生きてる。
あ、もちろん、お前じゃない、からな。」
「えっ!?」
「えっ!?それ…!ノヴァン隊長、ほんとですか!?」
後半の発言には、俺以上に、サクヤの方が驚いていた。
「おう。今回の、ミタ山での事件を調べてて…確実に、”分かった”。
ーー”本物の”黒の悪魔は、間違いなく、まだ生きているよ。」
それを聞き、そのまま…何やら真剣な様子で、考え込むサクヤ。
俺は、そんなサクヤから、改めてノヴァンに視線を戻し、
その自信満々な笑顔を、じっと見つめる。
本当に…。
「あなたには…分かる、んですか?…どうして…?」
俺を、違うと言ってくれるのは、正直嬉しいけど…。
この人の”チカラ”は、そんなに何でも”分かる”、ものなのか…?
「え?
いやぁ〜俺、まあまあすごい発現者なんだよね。
この、溢れ出る才能…、子どもには、まだ分かんないかなぁ〜。」
ノヴァンは、嬉しそうに。ニヤニヤと俺を見つめる。
正直…その笑顔が、うさん臭い。
そんな、俺の表情を読み取ったのか
「ヨウ君には…信じられないでしょうが。
この人、こんな感じだけど…、まあ、本当にすごい人、なんですよ。…こんな感じだけど。」
サクヤが、後ろのノヴァンの方は見ずに。俺に向かって、コソコソ話のように言う。
「うおい!聞こえてんぞ!
こんな感じって…どんな感じだよ!大事なことだから、2回言いました〜ってか!?」
後ろでも、ちゃんと聞こえていたらしい、ノヴァンのツッコミが聞こえてきた。
それでもサクヤは、後ろは一切見ずに続ける。
「まあ、そういうことですので。君は…”今の君”は、黒の悪魔でも何でもないんです。
ただ…今後、またなにかのきっかけで、”黒の悪魔になる”、可能性は…ある。
つまり君は…、言い方は悪いが、貴重な存在。黒の悪魔に関する、1つの”手がかり”なんですよ。
なので…
”禁色”かつ”手がかり”、でもある君の…”保護”と、
”黒の悪魔になる可能性”を、完全には捨てきれない君の…”監視”も兼ねて。
私達の組織…”深淵の黒色隊=ブラックアビス”に、入って…くれませんか?」
サクヤは笑顔で、その右手を…、
拘束されている、俺の右手でも、届く距離に、突き出した。
「僕たちは…”黒の悪魔”を復活させ…世界を支配しようとしている、
高潔の白色隊(ホワイトノーブル)を止めるため、立ち上がった組織です。
”黒の悪魔”の、真の消滅…”悪魔よ、深淵に”。ただ、それだけを、願う…
…僕たちは、深淵の黒色隊(ブラックアビス)。
一緒に…ホワイトノーブルの真の野望を阻止して、世界の平和を、守りましょう!」
そう言って、サクヤはニコッと笑う。
その顔は…やっぱりどこか、アオ兄に、似ていた。
「まあ、そういうわけよ!」
ノヴァンも、ニヤッと笑って。
椅子から立ち上がり…右手を、サクヤと同じように、俺に差し出した。
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