第36話「中庭に集まるのは」

「ヒマリだけじゃない…。俺も、一緒に行きます。」

そばで聞いていたレンも。私の発言を、後押ししてくれた。

私達は…

…【黒の再来】に巻き込まれた、あの日。

ブレイズ隊長に守られ…、そのまま、夜通し走り…朝方に、このホワイトノーブル本部に到着した。

本部で、改めて…”黒の悪魔”、ヨウのことを聞いて。

絶対に許せないと誓った私は、ブレイズ隊長に頼み、ホワイトノーブルの一員となり。
レンと2人で…真っ白な隊服に、袖を通した。

そして…

「どうしても、ダメでしょうか?」

本部に着いた日は、とてもじゃないけど…ゆっくり、休めなかった。

でもその分、昨日は1日、しっかり休めたと思う。

体力も、すっかり回復している…はず。私は、一刻も早く、ヨウを…

「ミタ山には、別のホワイトノーブルの隊員が、すでに向かっています。
まずは、その報告を待とう。早ければ、そろそろ届くはずです。それに…

…今の君達が、”黒の悪魔”、ヨウ君に…勝てるとは。私には…到底思えないよ。」

ブレイズ隊長は、真剣に説明する。

「で、でもっ!」

「特にヒマリ…、君は”禁色”です。

勝てないどころか、彼に捕まってしまったら…何をされるか、私にも…分からない。」

「…っ!」

…ここへ来て、聞いた話。

”黒の悪魔”は…私のような”禁色”を、秘密裏に集めていた…らしい。

”禁色”が発現して…すぐ、行方不明になった人のリストを…思い出し。
ブルッと、身震いするのを感じた。

そこに…

「そんなおどかすようなこと言うなって〜。

ヒューは相変わらず…王子様みたいな顔して、冷たいこと言うなぁ。」

「…、ガイ・ニジィール隊長。…おはようございます。」

大柄で…、歳は30代後半くらい…だと思う。
真っ白の隊服に、茶色の髪と、ヒゲを、無造作に生やした男性が。

本部の、中庭に面したテラスで話をしている、私達の輪に、入ってきた。

「入隊した頃は…表情も豊かで、可愛かったのになぁ。」

ニジィール隊長と呼ばれたその人は。

何かを…思い出すように。

朝の晴れ渡った空を見上げて、そうつぶやいた。

「昔の…話です。

そんなことより、何か御用がおありでは?

そうでなければ…どうしてわざわざ、こんな所へ…。」

ブレイズ隊長は、どこか…見たことのない、それこそ”冷たい”表情で。

二ジィール隊長から目をそらし…中庭の方を見ながら、そう質問した。

「あぁ、ミタ山の調査にいってた班から、連絡が来たんだ。

ヒューは、【再来】の時…現場にいた、当事者だしな。

それに…

…”黒の悪魔”…絡みだ…

…一番に、知らせてやろうと思って、な。」

二ジィール隊長は、少し…寂しそうに笑って、質問に答えた。

ブレイズ隊長は…

そんな二ジィール隊長に、相変わらず…視線を、合わせない。

「あ、あと…そこの2人。
ヒマリと、レンっていったかな。…入隊、おめでとう!

挨拶が遅れたが…、俺は、ホワイトノーブル”特色隊”隊長、ガイ・ニジィール。

ヒューと一緒に、報告を聞いていけ、な。」

二ジィール隊長はそう言って、私達に、人懐っこい笑顔を向けてくれた。

「は、はいっ!ヒマリ・プリマナです。よろしくお願いします。」

「レン・キールマンです!よろしくお願いしますっ!」

私達は、急に話しかけられて。

2人して、緊張しながら、挨拶を返した。

「ははっ。そんなに緊張するな。
俺は、見た目はこんなだが…3人の隊長の中で、1番優しいんだぞ?」

そう言って。
二ジィール隊長は、レンの肩を、ポンポンと叩いた。

そこへ…

「それは…聞き捨てなりませんわね。」

美しく…透き通った、女性の声。

「わたくしのどこが…優しく、ないんです?」

その美しい声に見合った、美しい女性が。

真っ白の隊服を上品に着こなして…私達の背後から、スルリと現れた。

「ははっ。すまんすまん。

ユンナは、十分優しいぞ。ちょっぴり俺の方が、”優しすぎる”って、だけだな。」

ユンナ…と呼ばれた女性は…少し、頬を膨らまして。

「まあ…!わたくしも、”優しすぎる”隊長ですわよ。

新人のお2人さん、
”暖色隊”隊長、”ユンナ・チェリーナ”は、とっても優しいって…

…そう、覚えていてくださるかしら?」

歳は…ブレイズ隊長の、少し上…くらいだろうか。

足元まで伸びた、サラサラの赤い髪を、朝の風になびかせて微笑む…

その、美しく、優しげな姿に

「は、はいっ!」

「もちろんですっ!!」

新人さん、と声をかけられた私達2人は、
また、現れた”隊長”という肩書をもつ人物に…再度、緊張しながらも、

私は…直立不動で。

レンは…首を、思いっきり上下に振って。

それぞれが、勢いよく返事をした。

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