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「自然言語」と「見せて教える」で業務自動化:急変するRPAのビジネス実装

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、業務プロセスの効率化を目的として急速にビジネスシーンでの活用が進んできている技術です。RPAは主にルールベースで動作し、特定のパターンや手順に従ってタスクを実行してきました。つまり、ルール化可能なオフィス業務の多くは、自動化可能と言うわけです。しかし、その実装には、専門的なソフトウェアの知識や高額な開発コストを要するケースも多く、結果として多くのRPAツールの乱立も起こり、ビジネス実装が効果的に進まないという実情もありました。そんな中、2024年5月21日(現地時間)にシアトルで開催されたMicrosoft Buildの基調講演にて、Microsoftが展開中のPower Automateという業務自動化に用いられる開発環境に新たに2つの実装方法が追加されるとの発表がありました。「自然言語」による実装と、「見せて教える」マルチモーダルAIレコーディングです。

そもそもRPAとは

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、ソフトウェアロボットを使って業務プロセスを自動化する技術です。具体的には、RPAは定型的かつ反復的な業務を人間の代わりに処理することができます。例えば、データ入力、情報の抽出、レポートの生成などが該当します。

RPAの特徴として以下が挙げられます。

  • ルールベース:RPAはあらかじめ設定されたルールに従って動作します。特定の条件や手順に従う作業を自動化するため、業務フローが標準化されているほど効果的です。

  • 非侵襲性:既存のシステムに変更を加えることなく、RPAはその上で動作するため、システムの大規模な改修を必要としません。

  • 迅速な導入:比較的短期間で導入が可能で、迅速に効果を実感できる点が魅力です。

RPAの導入により、業務効率の向上、ヒューマンエラーの削減、コストの削減といった効果が期待できます。しかし、RPAは万能ではなく、複雑な判断を伴う業務や頻繁に変動する業務には適していません。そのため、RPAの適用範囲を見極めることが重要です。

生成AI×RPAの経営戦略への影響

高ROI実現の可能性

アメリカの調査会社であるForresterより2022年8月に発表されたレポートによれば、Power Automateの適切なビジネスへの実装により、ROI140%が見込まれるとされていました。そもそもROIとは、投資した金額からどれほどの利益(投資金額控除済み)ができたのかを示す指標で、0%を上回ればその投資自体はとりあえず回収していることを意味します。どの程度の数字が導入判断の閾値になるかはさまざまですが、140%という数字は1億円を投じて2億4千万円回収したことを意味しており、かなりポジティブな印象を感じられるのではないでしょうか。

31ページに及ぶレポートのため詳細まではここでは述べませんが、単純化すると下記の要素を全て足し合わせることで算定できます。

利益への寄与(+)

  • レガシーシステムの開発コストや維持管理コストがなくなる

  • レガシーシステムでは実現しなかったが、Power Automateにより新たに実現できるシステムによる業務改善

  • 開発時間の短縮による機会費用の低減

新たに発生するコスト(ー)

  • Power Automateの開発コスト

  • Power Automateのライセンス料

なお、140%という数字は、今回のアップデートは適用前のものです。今回のアップデートでPower Automate自体の開発コストはさらに下がるため、今後はより高いROIを見込める可能性があります。

競争の激化

こうした効率化の取り組みは、全体としては大きな利益をもたらします。しかし、導入によってコスト削減と効率化が進む一方で、競合他社も同様の技術を導入する可能性があるため、競争の激化に対応するための戦略も必要です。したがって、以下の点も考慮する必要があります。

  • 技術の継続的なアップデート:技術の進化に対応し、最新の機能を適用することで競争力を維持する。

  • 市場動向の把握:市場の動向を常に把握し、競合他社の動きを先取りする戦略を構築する。

迅速な導入と適切な戦略によってはじめて、企業は高ROIを実現と競争力の維持・向上を両立できます。

Power Automateとは

Microsoftが展開する、ローコードのクラウド自動化プラットフォームです。RPAを特別なプログラミング知識無しに、700以上のコネクタ、提携アプリケーション群による多彩な業務シナリオに対し実装可能です。今回の発表でAIの統合を前面に打ち出す形となり、さらに実装のハードルが下がりました。

詳細は下記公式HPを参照してください。

今回のアップデートで可能になること

自然言語による実装

従来の自動化プロセスでは、ユーザーがトリガー、アクション、条件のシーケンスを全て手動でマッピングする必要がありましたが、今回、生成AIが自然言語の指示に基づいて自動化プロセスを推論し、最適な手順と順序を決定できるようになりました。

AIフローの利点:

  • 自然言語の利用:ユーザーはプロセスの目的を自然言語で記述し、AIが自動化計画を策定。

AIフローの構築ステップ

  1. 目的の記述:自然言語でプロセスの目的を記述し、AIに自動化計画を策定させる。

  2. プランの洗練:生成されたプランを洗練し、必要な入力、出力、変数を調整する。

  3. 検証:フローがビジネス目的を達成しているか検証する。

  4. 実行履歴の確認:実行履歴、分析、詳細を確認し、プロセスが期待通りに実行されているか確認する。

参照: Power Automate


マルチモーダルAIレコーディング

マルチモーダルAIレコーディングは、新入社員のトレーニングによく似た「見せて伝える」体験を実現します。
画面理解と音声処理を使用して、ユーザーがデスクトップ・レコーダーにプロセスの自動化方法を教えることができるようになりました。自分の画面を共有し、自分の声で何をしているかを説明することで、わずか数分でデスクトップフローを作成することができます

マルチモーダルAIレコーディングの利点

  • ユーザー体験の向上:ユーザーが自分の画面を共有し、声で説明することで、AIがプロセスを学び、短時間でデスクトップフローを作成します。

  • 自己回復能力:画面理解により、UI要素が変更された際にAIが自己回復し、ユーザーに推奨調整を提示します。

  • 柔軟なトレーニング:新入社員のトレーニングのように、簡単にプロセスを教えることができ、変更はPower Automateデスクトップデザイナーで行うことができます。

参照: Power Automate

利用において考慮が必要なこと

  1. データの品質とセキュリティ: 自動化フローを構築する際には、使用するデータの正確性とセキュリティレベルを確認することが不可欠です。不正確なデータは誤った結果や意思決定を引き起こす可能性があります。そのため、データソースの信頼性を確保し、データの整合性を保つことが重要です。

  2. ユーザーのスキルセット: 自動化は今回のアップデートで以前より簡単になりつつありますが、基本的な技術知識や業務フローの理解は依然として重要です。自動化する業務プロセスを深く理解し、どの部分を自動化するべきかを判断する能力も必要です。

  3. AIの限界: 強力なツールですが、完璧ではありません。結果を検証し、人間の介入が必要な場合もあります。自動化された結果を定期的にチェックし、必要に応じて修正を行うことで、精度を維持することができます。また、AIが誤った判断を下した場合に備えて、人間が介入できるフローを用意することも重要です。

ビジネスでのユースケースの考察

GPT を使用してメールに応答する

指定された件名を持つ電子メールを GPT を使用して要約し、その結果を Teams に送信が可能。

さらなる応用
より細かくジャンル分けをしてメールを判別することで、特定のメール群を全て整理して要約し、そこにGPTを用いてレポート化することも可能です。例えば、顧客のフィードバックメールのみを抽出して、CSレポートを作成するなど。

GPT を使用してドキュメントから情報を抽出する

GPT を使用して OneDrive で受信したドキュメントから情報を抽出し、電子メールで情報を共有可能
さらなる応用
社内報などをリアルタイムで生成して共有する。これまで人手で作っていると、数日のラグが発生する上に工数もかかっていたが、工数ゼロ・タイムラグゼロでの社内報を実現できる。またそれをTTSで音声化して、隙間時間に把握するなども可能

Salesforce で新しいリードが作成されるとチームに通知される

新しい営業案件またはリードが Salesforce 追加されると、チームに通知が送られる
さらなる応用
リードのフォローアップ状況や成約率なども追跡してまとめることで、Power BI等でビジュアル化して全員が把握可能に。また、フォローアップのメールや資料のドラフト作成まで自動化することも可能。

Outlook.com のメールの添付ファイルを OneDrive に保存する

OneDrive から Outlook.com のメールの添付ファイルに簡単にアクセスできるように。Outlook.com の受信トレイに送信された添付ファイルはすべて、Power Automate の「電子メールの添付ファイル」というフォルダーに保存可能。
さらなる応用
さまざまな企業等から発せられるメールマガジンを、目的に応じてジャンル分けした上で集約し、その要約レポートなどを社内で共有することなどができる。

特定のキーワードに関する新しいツイートが投稿されたら自分宛のメールを送信する

Outlook.com の受信トレイ内の興味があるキーワードに関するツイートを追跡します。基本的なユーザーの詳細と共にキーワードに関するツイートがあるたびに、電子メールが送信されます。
さらなる応用
GPTと組み合わせることで、言語を超えて必要なツイートを収集したり、そのまとめレポートを作成するなど。また、それをさらに自動でツイートして情報発信することもできる。

さいごに

Power Automate等を利用したRPAのビジネス実装は、AIから利益を創出する手法として、今後さらに重要性が増すでしょう。

私たちは、具体的な課題解決や最適なユースケースの提案、費用対効果(ROI)を重視した計画の策定、スムーズな導入と運用サポートを通じて、AIが実社会に具体的な利益をもたらすための取り組みを進めています。

ご質問等ございましたら、メール(ai.business.laboratory@gmail.com)または、記事執筆者の水野(Xアカウント: @kakerumiz)、納村(Xアカウント: @akinoriosamura)までお気軽にお寄せください。

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