見出し画像

「それ、些細な変化じゃないですね」

6月に入ってから、調子を崩している。梅雨の時期は心身ともにつらい人が多いだろう。

私はというと、夜にぐっすり眠れなくなった。入眠剤で寝ついても眠りが浅くて、何度も目が覚める。翌朝の体は、鉛のように重い。

月に1度、心療内科に通っている。初診は2年前。もうすぐ3度目の夏だ。

「あまり調子が良くないんです。」
「夜、深く眠れなくて……」

これは先日の診察のこと。いつも私から、ポツリポツリと話し出す。

「最近、何か変化ありましたか?」

先生は、私がひと通り話し終えるのを待ってから、そう尋ねてくれる。

「先週、娘がお腹を下しました。」
「それは大変やったねぇ、、しばらく幼稚園もお休みしたんですか?」
「1日だけ休みましたが、すぐに元気になりました。」

「他に思い当たること、ないですか??」

思い当たることは、ある。確かにあるのだけど、喉につかえてうまく話せない。

心を落ち着けて、またポツリポツリと話し始めた。

「……些細な変化なんですけど、夫の勤務時間が変わって……今までは、夫が幼稚園に連れて行ってくれる日もあったけど、最近は私が送りも迎えも行ってて、」

「それ、些細な変化じゃないですね」

「あ、、え?……」

先生がそんな風に返してきたのは初めてのことで、思わず面食らってしまった。

「……そ、それで、うまく眠れた日の翌朝ならいいんですけど、、眠れなかったときは、もうほんとに、つらくて……」

心を覆っていた鎧が、ガタガタと崩れ落ちた。

本当は、フラフラのままで娘を乗せた自転車を漕ぐのが怖くてたまらなかった。でも自分のせいで幼稚園を休ませたくない。片道10分。たった10分を、なんとか漕いでいた。

坂道がつらい。
なんで電動にしなかったんだろう。
(人力でがんばっている)

あぁ、早く横になりたい……。

フラフラのままで連れて行って、フラフラのままで家に帰っていた。

「夜眠れないのに朝送らないといけない。それはストレスやねぇ。」
「旦那さんに、なんとか送ってもらえないですかね……幼稚園、早預かりとかないんですか?」

先生は親身になって提案してくれたけど、残念ながら早預かりはない。

「とにかく、夜眠れるようにしたいですね。」

いろいろ話した結果、睡眠を深くする薬を増やした。


-


「それ、些細な変化じゃないですね」

診察後も、先生のセリフが頭から離れなかった

どうして「些細な変化」だなんて言ったんだろう?
なんでそんな風に思っていたのだろう?

理由は明確だ。

「これくらいのこと、みんな普通にやってるんだから」
「私も当たり前のようにやらなきゃ」

まわりと比べても毒にしかならないと、分かっていたはずなのに。そうやって自分の気持ちに蓋をするから、体が悲鳴をあげるのだ。

「些細な変化じゃない。本当は、今の私には、きついよ。」

認めよう。まずはそこからだ。
気づけたなら、それでいいじゃないか。

今日はしっかり眠れるだろうか?
明日はすっきりと起きられるのだろうか?

日によって波がある。それも受け入れよう。

そんなことを思いながら、今日も布団に入る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?