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【短編小説】光のない海


光のない海


夜の海

辺り一面真っ暗闇の海
どんなに目を凝らしても
明かりひとつないこの堤防からは
何も見えない

手を伸ばせば触れられる距離に
いるはずの君との間を
強い風が吹き抜ける

ほんのこの間まで暑かったのに
もう夜はこんなにも冷たい風が吹く

最近なかなか会えなかった君
僕が忙しかったのもあるけれど
それだけじゃないことも分かっている

今日、君から
「夜会えない?」と連絡が来た時
"あぁとうとうこの日が来たんだな"と
僕は覚悟した


夜の海

君との始まりも夜の海だった


そして今日....

僕たちは夜の海で終わる

...... ...... ...... ...... ...... ......

「寒くない?」
「うん、ありがとう」
そう言って僕の着ている
ブルゾンを君の肩にかけると
"あったかい"と満面の笑みが広がったのは
もう何度前の"夜の海"だろう


月明かりに照らされた君の顔は
昼間見るその顔より白く
神秘的だった


その頬に急触れたくなって
手を伸ばすと
ビクッと君が震える

「ごめ... 」
一呼吸おいてもう一度
「触ってもいい?」
そう確認して頬に触れた

夜風に冷えた頬
薄明かりの中では見えないはずなのに
なぜか紅く染まっているのが分かった

「好きなんだ、〇〇のこと」

そう呟くように話すと
下を向いた君が視線をあげ
瞳が僕を捉える

「僕と一緒にいて」

そう言うと恥ずかしそうに
また下を向いたけど
君が小さく頷いたのが
頬に添えた手からはっきりと伝わる

遠くの水平線にみえる小さな明かりを横目に
僕はそっと君の唇に触れた...

...... ...... ...... ...... ......

あれからそんなにも
時はたっていないように感じるのに
僕たちは...
僕たちを取り囲む全ては変わってしまった...

「あのね...」
そう切り出したのは君だった


何も言えずにただ君の顔を...
いや、正確に言えば君の顔は見えないから
君の姿を感じる方を見つめながら
僕は君の言葉を待つ


「わたしやりたい事があるんだ...」
ポツリと君が、言葉を置くように
話し始める


やりたい事?

「うん、そう...
まだ話してなかったけど
私やっと頑張れそうな事見つけたんだ」

うん...

「だから、あのね...
私もうここにはいられないんだ」

うん...

「待ってなくていい
これからは私の帰りを待たないで」

うん...

「もう、あなたのこと...
好きじゃ... ないから...」

振り絞るように言った君の声が震えていた
だけど
僕はそれを、、、見ないようにした

寄せては返す波音は
止まることはないけれど
僕たちの音は途切れて行く...

ギシギシと音を立てて
今日まで壊れかけながらも
2人で歩いてきたけれど
ここがぼくらの終着駅だね...

「ありがとう...」

そう呟いた僕の声が
君に届いたかは分からないけれど
君が大きく頭を振っていることは
なんとなくわかった...

あの夜の
月灯りの下で
僕たちはずっと一緒にいようと
誓った...

そして今夜
月のない夜に
僕たちは

終わった

______________



さぁ、あなたは誰を思い浮かべましたか?


who was crying?
泣いたのは... 僕だった

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