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【ショートストーリー】あの人が身近に感じられる庭で
「おばあちゃん、今日は天気がいいから、一緒に外に行かない?」と沙織は母に提案した。母はもう長い間車椅子生活を送っているが、その顔にはいつも優しい笑みが浮かんでいた。
「あら、いいわね。でも少しだけね、すぐに疲れてしまうから」と母は静かに答えた。
沙織は母の手を取り、車椅子を押しながら庭に出た。庭には色とりどりの花が咲き乱れ、鳥のさえずりが心地よく響いていた。沙織は庭のベンチに座り、母の車椅子をその隣に置いた。
「おばあちゃん、覚えてる? ここにいつもいたおじいちゃんのこと」と沙織は問いかけた。
母は遠い目をしながら微笑み、「もちろんよ。おじいちゃんがこの庭を作ったんだから……。彼はこの庭を愛していたわ」と言った。
「私も最近おじいちゃんのことをよく思い出すの。おじいちゃんが作ってくれたこの庭で、たくさんの時間を過ごしたわ。おばあちゃん、天国に行ったら、おじいちゃんにまた会えると思う?」と沙織は続けた。
母は少し考え込んだ後、優しく答えた。
「そうね、天国がどんなところかは誰もわからないけれど、きっとあの世でまた会えると思うわ。それに、最近天国が少し身近に感じるようになった気がするの」
沙織は母の言葉に深く頷きながら、「私もそう思うわ。天国に行ったら、おじいちゃんや、もう亡くなってしまった友達にまた会えるかもしれないって考えると、少し心が温かくなるわ」と言った。
母は少し目を細めながら、「でもね、沙織、私はまだこちら側にいるのだから、毎日を大切に生きなければだめよ」と言った。その言葉には、歳を重ねた母の深い思いが込められていた。
「うん、そうだね、おばあちゃん。私もおばあちゃんがまだこちら側にいてくれて、嬉しいわ。私たちがこうして一緒に過ごせる時間を大切にしよう」と沙織は答えた。
その日の夕暮れ、沙織は母と一緒に帰り、夕食を楽しんだ。母の顔には穏やかな笑みが絶えず浮かんでいた。その夜、沙織は母の言葉を思い返しながら、ふと窓の外を見ると、満天の星空が広がっていた。
「おじいちゃん、あちら側で見守ってくれているのかな」と沙織は心の中で呟いた。そして、母と過ごすこの一瞬一瞬を大切にしようと心に誓った。
それから数年後、母が天国へと旅立った。
沙織は深い悲しみに包まれたが、母との最後の時間を大切に過ごせたことに感謝していた。そして、母が天国でおじいちゃんと再会していることを信じながら、自分もいつかあちら側で再会できる日を夢見て、毎日を大切に生き続けた。
●
沙織はいつも母と過ごした庭で、満開の花々を見ながら思いを馳せる。
天国は確かに誰も見たことがないが、そこで再会することを信じることで、こちら側での毎日がより大切なものになるのだと気づいたのだった。生きるていること自体が奇跡であり、その一瞬一瞬が宝物であることを忘れずに生きていくこと、それが沙織にとっての真実だった。
(了)
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