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【小説】宇宙スケールの勇気と友情の物語〜『たったひとつの冴えたやりかた』#4

本書は「The Starry Rift」という原題で1968年に発表されたものを元にして、収録されている作品のうちのひとつからタイトルをとり、邦題を「たったひとつの冴えたやりかた」として、1978年に早川書房から出版されたジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの作品です。

体裁上は、宇宙連邦のデネブ図書館に連邦草創期の人間のファクト・フィクションを探しにきたコメノという種族の宇宙人の学生が、この3編の本を借りるという土台とした長編ですが、中身は、表題作の『たったひとつの冴えたやりかた』を含む『グッドナイト、スイートハーツ』『衝突』の中短編の3作が収録されている短編集です。個人的SFオシャレタイトルのベスト作品です。

作者の紹介をすると、小説以上に過激なので、ここでは割愛しますが、収録されている3作を紹介します。

たったひとつの冴えたやりかた

(原題:The Only Neat Thing to Do)

本作は、宇宙空間を旅する少女コーティー・キャスと、脳に寄生するイーアという種族の幼い個体シロベーンとのファーストコンタクト(異星人との最初の接触)ものであり、友情物語であり、勇気の物語です。

この短編集は、旧版と新版でカバーが異なりますが、いずれもカバーには、コーティーが描かれています。旧版のカバーは、挿絵を描いている漫画家の川原由美子さんが担当しています(記事の冒頭の本は、新版のカバーです)。カバーイラストの儚げなコーティーの表情と背景の宇宙が、小説の雰囲気にマッチしています。挿絵も所々にあり、SFを普段読まない人にも読みやすい小説です。

コーティーは、十六歳の誕生日にプレゼントしてもらった宇宙船を内緒で長距離用に改造して、内緒で旅に出かけます。

 宇宙の英雄たち!星野の探検家たち!  
 読者よ、問題をひとつー  
 ひとりの子供がいるとしよう。黄色い髪、だんご鼻にソバカス、人の顔を穴のあくほど見つめる緑のひとみ、金持ちのはねっかえり娘、当年とって十五歳。ホログラムの押しボタンに背がとどくようになってから、ずっとこの子が夢見てきたのは、最初の接触(ファースト・コンタクト)の英雄たち、遠い星ぼしの探検家たち、人類種族(ヒューマニティー)の恒星時代の夜明けに活躍した偉人だちだ。
(〜中略〜)
 さて、この子が、十六回目の誕生日のプレゼントに、頑丈な小型スペース・クーペを両親からもらったとしよう。  
 ここからが問題ー  
 この子はその宇宙船で、星のびっしり詰まった内部星域をちょこちょこ飛びまわり、母親が予想したように、クラスメートや知り合いを訪ねたり、それとも、父親が心配したように、自分の腕をひけらかすため、重力渦ビーコンのひとつふたつを突っ切ってみせるだろうか?
 この子が?どうかな?

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳『たったひとつの冴えたやりかた』ハヤカワ文庫,1987年,13ページ

ここの冒頭の口上は、ワクワク感とコーティーのおてんば娘感が伝わってきて、壮大な宇宙への冒険を期待させます。

旅の途中、コーティーは、行方不明になっていた宇宙船からのメッセージパイプを受け取りました。そのメッセージには、ある惑星に降り立った話が録音されており、コーティーもそこへ目指すために、冷凍睡眠につくことに。

そして、冷凍睡眠から目覚めると、なんと、コーティーの頭の中には、寄生型のエイリアンであるシロベーン(シル)がすみついていました。

脳に寄生されているなんて、めちゃくちゃ怖いですし、このまま支配されてしまうのではと思ってしまいますが、意外にもシルは友好的でいい奴なので、コーティーは、シルと打ち解け二人?で旅を続けますが、そこで衝撃の展開が待ち構えます。

この作品の魅力は、なんと言ってもイキイキとしたキャラクター描写です。好奇心旺盛なそばかすおてんば娘(なぜか、そばかす=おてんば少女というイメージが海外小説にはあります。。)のコーティーと、小さな寄生体ながら外の宇宙に憧れたシルのバディものとしては、掛け合いも面白くテンポよく話が進んでいきます。

そもそも、ファーストコンタクトものは、だいたい宇宙飛行士や科学者が担うことが多いように思います。
このコーティーという少女だからこそ出せる面白みが本作にはあり、ガールミーツエイリアンの名作となっているのではないでしょうか。

また、作者のジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの作品にはテーマとして、本能と理性の対立が多く登場します。この作品にも寄生体のシルの葛藤が描かれています。

本作は、二人の旅に待ち受けている事態に立ち向かうため、タイトルにある<たったひとつの冴えたやりかた>を選択します。読んでいると、本当にこれしか方法がないのか。これが本当にたった「ひとつ」の「冴えた」やりかたなんだろうかと思わずにいられない展開となります。
書評者には、「この小説を読み終わる前にハンカチが欲しくならなかったら、あなたは人間ではない」とまで言わしめたようです(流石に煽りすぎだとは思いますが…)。

グッドナイト、スイートハーツ

原題:Good Night, Sweethearts

一隻のサルベージ船が、宇宙空間で漂流している宇宙船を救助することで始まる物語です。

(ストーリーの本筋から外れるのですが、宇宙での長距離移動に冷凍睡眠を使う場面がありますが、もし、この技術が広まったらと想像すると、生まれ年と年齢と身体が合わないだろうし、その間に知り合いがどんどん歳とっていくから、宇宙船で働くってかなり孤独な仕事になるんだろうかと想像してしまいます。コーティーも冷凍睡眠使ってたけど、宇宙出るってもしかして、想像以上に一生を狂わせかねない選択なのか。。)

衝突

原題:Collision

人類とジーロという宇宙人のファーストコンタクトものです。こちらの作品はあまり有名ではないですが、個人的には、表題作と同じくらいに好きな作品です。

連邦の人類とジーロという種族は、直接、コンタクトをとったことがないのですが、ジーロは、暗黒界という反連邦の荒くれものの人類の集団と先に接触していたため、銀河ピジンという簡単な共通語を会得しているジーロの通訳者ジラノイがいました。
(ピジンとは、異なる言語の人々が、共通して話す簡略した言語のことを言います。)

ジーロは暗黒界に同盟が攻撃されるなど、人類に対しては、ものすごく敵対的です。でも、連邦は暗黒界の奴らとは違うんだと、連邦の人類とジラノイが、ジーロの軍に対して必死に説得していくというストーリーです。

銀河ピジンでの拙いながらも必死に伝えようとするシーンは見どころです。
そして、ジラノイの必死さが可愛らしいです(見た目は、ひとつ目のカンガルーですが)。

また、ジーロの不思議な生態の記述にも惹かれます。

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