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夫が専業主夫になったら、全て上手く回りはじめた話。


「仕事がなくなっちゃったみたいで…働けないみたい…。」
来月から転職し新しい職に就くはずだった夫がボソボソと歯切れ悪く言った。

はい?
働けないって何?
どういうこと?
え?
お金は?お金は?お金は?
どうするのさーーーーーーっ!! 

申し訳無さそうに困った顔してる旦那を前にして、優しく「大丈夫だよ、なんとかなるよ。」とは言えなかった。

2020の年4月、新型コロナウイルスが騒がれ始めた頃。
時代の波にのまれ、夫の転職話が頓挫した。

焦った。焦りまくった。
ウチには余裕がない。一切ない。
ウチは子どもが2人。
3才と1才。
私は3月に育休から復帰したばかり。
時短で働き始めていた。
夫が働けないと経済的に厳しい…

私は病院で看護師をしている。
看護師は高給取りと思われる人も多いが、
週5日、フルタイムで激務をこなしても、日勤では手取りで20万もらうのは難しい。
夜勤をやれば夜勤手当てがつくのでもう少し稼げる。
せめて下の子の夜泣きがなくなるまでは、夜勤はやらないつもりだった。
しかしそんなことは言っていられない。
フルタイム+夜勤が始まった。

子どもたちは4月から市の保育園に入園が決まっていたが、4月に入り緊急事態宣言が出され、保育園からもできるだけ家庭で子どもをみるようにと言われた。

夫は仕事が決まるまで、3歳児と1歳児をひとりで家でみることになった。
初めての専業主夫生活が始まった。

夫は優しくて明るく人から好かれるタイプだ。
私は彼の優しくて明るい性格に何度も救われた。
彼のことを好きだし、尊敬している。

子どもの事も大切にする。
家事もする。料理も洗濯もできる。
私が言わなくてもやってくれる。
浮気もしない。
真面目に働く。

そんな素敵な夫を殺したくなった時期がある。
2人目が産んで間もない頃だった。

私たちの産後クライシス

私は切迫早産の体質で2か月入院し出産。
長期のベッド上生活で体力は衰え、産後の体調は最悪だった。
しかし里帰りはできず、実母・義母の応援はほぼなく、
退院後すぐにイヤイヤ期真っ盛りの2才児と新生児との生活が始まった。

身体も心も本当にしんどかった。
かわいい2才の小さい子に、イライラして怒鳴ってしまう。
新生児の産まれたてのかわいい泣き声に「うるさい」
っと言ってしまう。

辛かった。
イライラする自分がたまらなく嫌だった。
でもどうにも自分を変えられない。
今日は怒らない、優しい母でいよう。
今日こそは、今日こそは…と毎日反省しては自己嫌悪で、次第に消えたくなってた。

彼は定時で帰ってきた。
優しくて家事もできる彼は、帰ってすぐに風呂を洗い、洗い物をし、上の子に食事を食べさせてくれた。

帰ってきて夕食を食べる彼に、
「今日は二人同時に泣いて辛かった。かわいいのに怒っちゃう。しんどい。」
と、気持ちを吐き出した。

すると優しくて明るい彼は
「世の中さ、ツライことはもっとあるよ。」
「せっかく2人も子供がいて幸せなんだから、愚痴ばっかり言うなよ。」
と語った。

明るい彼は元気のない妻を励ましたかったんだと思う。
そして、本心で愚痴ばっかり言うなよと思っていたんだと思う。
今なら彼の言いたいことは理解できる。

でも当時は、わかってもらえないこと・共感してもらえないことに絶望と激しい怒りがこみあげてきた。

「そういうことじゃないんだよ!」
助けて欲しいんだと言うと、

「俺だって仕事してるんだ。夜中子どもなんかみてたら仕事できないだろ。」
「俺はやることやってるよ!家事だってやってる!」
と言い返され、気がつけば日に日に彼の優しさも明るさもなくなっていた。

どんどん孤独になっていった。
子育てが辛いと言えば母親失格だと思われるのが怖くて、友達にも親にも相談できなかった。

産後1ヶ月を過ぎた頃、消えたい気持ちが強くなっていた。
仕事中の彼に
「死にたいと思っちゃう。ダメだと思う。帰ってきて助けて欲しい。」
とLINEした。

彼は早退してきてくれた。
しかし、帰ってきて早々にビールを飲み始めた。
私はそれをみて、殺意がわいた。

「死にたくなっちゃうんだよ。助けてよ!」と子供の前で泣きながら訴えた。
「死にたいとかめんどくせーこと言ってんじゃねぇーよ!」
「それでも母親かよ!自分の子どもだろ!自分で見ろよ!」

彼からのその言葉がショックで、その後どうなったのかよく覚えていない。
何で私の気持ちを分かってくれないの!という趣旨のことを、子どもの前で怒鳴っていたと思う。

優しくて明るい彼はいなくなってしまったようだった。
分かってもらいたい人に、分かってもらえない。
それがこんなに辛いとは知らなかった。

その後も定期的に夫婦喧嘩が生じたが、産後半年ほど経って、自分の体調が回復したことや夜間の頻回授乳が終わった頃から、我が家は少しずつ平穏になっていた。

しかし、私の中で彼に言われたことや、彼の態度に対するモヤモヤは消えなかった。(根に持つタイプや…)

そのモヤモヤが消えたのは、彼が専業主夫になってからだった。

夫が専業主夫になって

もともと家事もできる夫は、順調に専業主夫生活をスタートさせていた。
私自身、すごく助けられた。
安心して子どもたちを託して仕事に専念できる。

しかし2週間程経って、彼から愚痴がこぼれるようになった。
子どもたちにも苛ついた様子を見せることもふえた。
彼が「今日はこんなことがあって、あれもこれも大変でさ〜」
と言い始めた。

私は待ってました!!!
心の中でガッツポーズをした。
「うんうん、そうだったんだね。ありがとうね。
 大変だよね。
 その気持ち、よ〜く分かるよ。
 私、産んでから365日そうだったの。」

「でもね、あなたが1年前に私に言った言葉覚えてる?
 世の中ツライこともっとあるよ。
 せっかく子ども2人もいて幸せなんだなら、
 愚痴言うなよ。
 お前父親だろ。
 自分の子どもなんだから自分でみろよ。
 って、2ヶ月以上ベッド上生活でフラフラの体で
 産んだばかりの産後の妻に、あなたはそう言ったよ。」

「…あぁそうだね、分かったよ。」
と小さく言った彼の顔を見て、私は満足した。

やっと言い返せた!
いや、もっといや〜な言い方をしてやりたいくらいだった。自分の性格の悪さに驚く…。

彼は経験して初めて子どもを1人で見ることの大変さを知った。
「仕事してる方が楽なんだな」
「メシ作る時間なんてないんだけど、どうやって作るの?」
と、夫婦の会話も増えた。

「俺だってやることやってる。」
と言い切っていた彼は、やることだけやれば生活が回っていたのは、やれること以上のことを私がやっていたからだと理解した。

夫が専業主夫になってから、私も夫も「ありがとう」と言う回数が格段に増えた。
家事も育児もやってどっちがやっても当たり前なんだけど、だからこそありがとうと言い合えるようになった。

夫が専業主夫を経験して良かったと思うことは、
働くことの大変さや責任も、子育てのしんどさも楽しさも二人で共有できるようになったこと。

それまで彼の心のどこかに多く稼いでるほうが偉いとか、家事や子育てなんて働くことに比べたら簡単だとか、母親なら我が子を愛してやまないはずだとか、そういう固定概念があったと思う。

私も経験して初めて子育ての辛さを知った。
全ては子どもの機嫌次第で、何一つ思い通りにこなせないストレス。トイレにも思うように行けない。
どんなに子どもが好きでも可愛くても、慢性的な睡眠不足とストレス下では、大切に接する事が出来なくなる。
ましてやそんな中でパートナーに優しくする余裕なんてない。むしろ優しくされたい。なのに家事も育児もやって当然と言われる。

そういう諸々の感情や辛さを夫が理解してくれた。
私がダメな母親だから愚痴ってたんではない、もともと一人で子育てなんて無理なんだと分かってくれた。
それが信頼となり、お互いをリスペクトし感謝し合う事が自然とできるようになった。

専業主夫期間を終えて

夫の就職先も決まり、2ヶ月の専業主夫期間が終わった。
また共働き生活がスタートしたが、驚くほど上手く生活が回っている。
話し合いの結果、私は夜勤も継続し主で稼ぐ事にした。
夫は定時で帰れるように契約社員となった。

どちらかが仕事の愚痴を言い始めたら「そうか、大変ったね」と傾聴する。
保育園の準備をどちらかがすれば「ありがとう」と言う。
保育園のお迎えは行ける方が行く。
どちらかが夕飯を作っている間に、どっちかが洗濯する。
すごく良い連携プレーができている。

家事と育児と仕事のバランスをどうするのか、どの家庭も問題だと思う。
今我が家は奇跡的にうまくいっている。
本当に奇跡だと思う。
怪我の功名というのか、転職出来なかったおかげで夫が改心した。

そもそも家事と育児と仕事のバランスをいつも一定に保つなんてことは不可能だ。
誰かが風邪でもひいたらもうてんやわんやになる。

なんとかそれでも生活ができているのは、夫婦2人で「2人で子ども達を幸せに育てよう」という共通目標があるからだと思う。

金銭的余裕は全くない。貯金も貯められない。
お金の事を考えたら、夫は残業があっても給料の良い仕事を選んだ方が良かった。
しかし2人で出した結論は、子育てに手のかかる(でも一番かわいい)この数年は、金銭的余裕よりもワンオペ育児にならないような働き方だった。
(2人で定時に帰れても育児しながら働くことは簡単ではないが。)

結果としてジェンダーフリー的な考え方にたどり着いたけど、これが正解!と言う話ではない。
たぶん世間の価値観や常識ではなく、夫婦2人がどうしたいのか、何を優先したいのか、その価値観が一致できた時、お互いがそれぞれのパートナーとして機能し始めるように思う。


出会ってから15年、結婚して10年経ち、今本当のパートナーと思えるようになった。
お金はないけど何故かすごく満たされていてしあわせだ。
諦めていた3人目も授かる事ができた。
産まれたらまた生活が変わるだろう。
また危機が訪れるだろうけど、なんとか乗り越えたい。

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