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生活の手帳

「ちょっとギター、走り過ぎだろ」
「……ごめんなさい」
「いや、そんな怯えた顔しなくても……」
「しょうがねえだろ。こいつ実際、怯えてんだから」
「おれ、そんなに恐いか?」
「恐いよ」
 車折禎は高校に入り棠野瑛介という男に誘われてバンドをはじめたのだが、そこのメンバーである鈴木玲二は無口で無気力で、女の腐ったような奴だった。外見も女と見紛うばかりで、なよなよしている訳ではないが、実に頼りない。それでも、ギターを弾かせるとプロも裸足で逃げ出すほどの腕前なのである。彼は妙な奴だと思った。
 軽音部の部室で棠野に声を掛けられ、はじめて一緒に演奏した時も、見掛けに寄らぬ演奏に舌を巻いたが、玲二は明白地に車折を見ないようにしていた。彼は何かに気を取られているのだろうと思っていたが、数ヶ月その態度は変わらなかった。棠野もバンドに関することは玲二の意見をまったく訊かなかった。
 新入部員が少しづつグループを作り、ふたつみっつのバンドが出来た頃、先輩が練習の割当を決めた。
「練習が出来るのは此処と、音楽教室と講堂なんだけど、講堂の方は運動系の部から苦情が出てて、もう駄目かも知れない。一年はバンド、幾つだっけ——みっつな。そんじゃあ、一週間でスケジュールを組むと……」
「放課後、なんか用事ある?」
「特にないけど、あんまり遅くなると困る」
「学校だから遅くまでは利用出来ないよ。家が厳しいのか」
「厳しくないけど、うち、母親が居ないから家事とかしなきゃいけないんだよ」
「はあ、そりゃ大変だな。玲二んとこも家のことは兄貴が全部やってるけど」
「親が居ないのか?」
「居るけど、おふくろさんがなんにもやんないんだよ。あいつはその兄貴が育てたようなもんだな」
「へえ」
「棠野、おまえんとこ部室と音楽教室とどっちがいい?」
「なるべくギャラリーの少ない方がいいです」
「なんで」
「多分、玲二が厭がるから」
「そんなんでバンドやれるのか」
「中学の時、文化祭に出たことはありますけど」
「うーん、あんだけの腕してたら恥ずかしがる必要はないと思うけど、おとなしい奴だからなあ。じゃあ、部室じゃない方がいいか。そうすっと、木曜日か土曜日になるけどいいか?」
「いいですよ」
「鈴木に訊かなくていいのか」
「いいよ。あいつ、意見なんか云わないし、おれが決めたことに逆らったりしないから」
 随分な扱いだな、と彼は思ったが、実際その通りだった。ただし、棠野が思うほど玲二は他人の視線を気にしてはいなかった。気にしていない、というより、無関心なのである。見た目が見た目なので男も女も寄って来たが、玲二は頑丈な殻に閉じこもって貝のように心を閉ざしていた。
 玲二が車折に打ち解けたのは、会ってからおよそ半年後のことである。
 恐いと云われたが、別に怯えさせるようなことを云ったりしたりする訳ではない。彼は玲二の性格の所為だろうと思っていた。
「車折君、恐いよ」
「どこが?」
「顔とか……」
 同じ組の女生徒にこんなことを云われ、彼はやっと己れの印象を認識した。が、顔が恐いと云われても、直す訳にはいかない。譬え整形したところで、根本的な部分が変わる訳でもない。車折禎という男は、顔もそうなのだが、性格も自分に厳しい侍のようだったのである。
 母親が早くに亡くなり、父と弟の男所帯で育った。父親は警察に勤める謹厳実直な人物であり、弟も品行方正で控えめな性格をしている。家族の仲は円満で、笑い声が絶えない、というのではないが、喧嘩をすることはない。この三人が本気で取っ組み合いの喧嘩をしたら、死傷者が出るだろう。
 父は柔道の有段者である。弟は高校卒業後、警察学校に入り、父と同じ職に就いたのだから腕っ節は強い。彼も無意味に暴力を揮うことはないが、いざ喧嘩となれば、ひとりやふたりくらいは病院送りに出来る。
 家事は兄弟が交替で分担していた。仏頂面の青年が台所に立って味噌汁を作ったり大根を千切りにしていたりする様は、ちょっと滑稽である。魚を捌く姿は板前のようであったが。
 女っけなどまったくないまま高校二年までやってきたが、或る時、同じクラスの女生徒から呼び出された。なんだろう、果たし合いか?(んな訳あるか)と思った彼だが、「あなたをお慕い申しております」という、恋の告白であった。ああ、そう、と答えた彼に、つき合ってもらえませんか、と女の子は云った。
 男女のつき合いがどういったものだか知らない訳ではなかったが、今の今まで意識したこともない女と、どう接すればいいのか判らない。かといって、理由もなく断るのもおかしな話である。
「いいけど、何すればいいんだ」
「何って……」
 そりゃ返答に困るだろう。こと細かく述べる訳にもいかない。だがこういう男には、箇条書きでして慾しいことを書いて渡すべきかも知れない。
一、親しく会話を交わす。
二、手を繋ぐ。
三、お互いの家へ行く。
四、くちづけを交わす。
五、機が熟したら、それ以上の関係に進む。
 当然のことながらそんなものを渡したりはしなかったが、教室で話したり、午飯を一緒に喰ったりするようにはなった。ふたりきりではなかったが。
「ねえ、最近車折君とよく一緒に居るけど、彼、恐くない?」
「恐くないよ。結構優しいし」
「優しいの?」
 こんな風に云われるのは気の毒な気もするが、そういう外見をしているので致し方ない。
「おまえ、女とつき合ってるんだって?」
 練習の時、棠野が彼に訊いた。そう云う棠野は、彼と違って高校に入る前から女に囲まれた生活をしていた。肉親ではなく、他人の女である。
「まあ、そうだけど」
「おまえみたいな奴が、どういう経緯で女とつき合うようになったんだ」
「つき合ってくれって云われて」
「もの好きな女も居たもんだなあ」
 酷い云われようである。玲二は何も云わなかったが、ふたりの会話を興味深そうに聞いていた。
 その玲二の母親が、高校二年の夏休みに駆け落ちしてしまった。彼は、中年女がそんなことをするものだろうかと訝しんだが、棠野が玲二そっくりだったと云うのを聞いて、それならば有り得るか、と考えた。玲二は矢鱈と美しい顔をしていたのである。
 棠野があれこれ玲二のことを心配するのを見て、高校生なんだからそんなに世話を焼かなくても自分のことくらい出来るだろうに、と思ったが、ひとそれぞれだから仕方がないか、とも思った。前よりも更に無気力になった玲二を、彼は彼なりに気に掛けてはいたが。

     +

 高校時代の女の子とは、二十四才までつき合った。五の段階までは進んでいたが(六年もつき合っていたのだから)、彼女が仕事の都合で海外へ赴任することになったのである。
「外国に行くなら、もうおれとは別れた方がいい」
「そんな……。帰って来れない訳じゃないし、連絡もするから」
「海の向こうへ行ってまで、おれのことを思ってくれなくていい」
 冷たい云い草である。好いていなかった訳ではない。好いていない女と深い関係になるような人間ではなかった。こんな男と甘い恋愛をしようとする方が悪いのだ。こまめに連絡を取っていれば、譬え相手が月の裏に居ようとも浮気などはしないのだが。
 そして彼は、再び女っけのない生活に戻った。この頃は家を出て、アパートでひとり暮らしをしていた。高校を卒業してから大学へは進学せず、アルバイトを点々としていたが、一年前から自動車整備士の資格を生かして「横山モータース」という、個人経営の中古バイクの販売店に勤務していた。
 或る時、午飯時に近所の定食屋へ向かう途中、ふと新しく出来た弁当屋が目に留まった。何気なくその店に入り、焼き肉弁当を買って帰った。安かった所為か、彼はそこへ足繁く通うようになった。レジカウンターには、温順しそうな女がいつも居た。
 一ヶ月ほど経った頃、彼はその娘に声を掛けた。雨が降りそうだったので、「雨が降りそうだな」と。そのままである。だが、雨が降りそうなのに、「いい天気ですね」と云う馬鹿も居ない。
 その時、ふた言三言会話を交わし、何度か通ううちに、彼女と親しくなっていった。食事に誘ったりしたが、それ以上の関係にはなかなか発展しなかった。傍から見ると苛々するような交際が続き、声を掛けてから二年近く経って、やっと彼女をアパートの部屋に招いた。
 晩飯の後片づけをする彼女の横へゆき抱き寄せたのだが、向こうは驚いて皿を取り落とした。彼女は慌てて破片を掻き集めようとして、手を切ってしまった。彼は黙って彼女の疵を手当てをして、皿を片づけた。
「すみません」
「痛くないか」
「いえ、大丈夫です」
 落ち着いたところで、やっと接吻することが出来た。外見にそぐわないことをしようとすると、いろいろ支障があるようである。それまで手も握らなかったのだから仕方がない。物事には順序というものがある。最初の女が箇条書きにして渡さなかったのがいけなかったのだろうか——そうではないだろう。まあ、順序などお構いなしに、いきなりフルコースを見舞う奴も居る。
 彼は彼女を近くの駅まで送ってやった。駅までは歩いて二十分ほどである。
「ずっと彼処でひとり暮らしをされているんですか」
「ああ、高校を出てから」
「大学は?」
「行ってない」
「そうですか……」
 会話が弾まない。
「また料理を作りにきます」
 そう云われて、彼はやっと微笑んだ。彼女が鍋まで提げてやって来た時も笑ったのだが。
 四年の交際を経て、彼が結婚を切り出した時も、彼女は驚いて皿を取り落とした。食器を洗っている時に驚くようなことを云ったりしなければいいものを。それとも、相手が狼狽して皿を落とすのを見て楽しんでいたのだろうか。この時も、彼はやはり黙って割れた皿を片づけた。彼女が怪我をする前に。
「結婚って、わたしとですか」
「他の女とするのをおまえに云う訳ないだろ」
 別れるつもりなら云うだろう。
「それはそうですけど……」
「迷惑か?」
「とんでもありません。嬉しいです」
 彼も地味だが彼女も地味だったので、お似合いではある。地味に結婚式を挙げ、地味に熱海へ新婚旅行に行き、2LDKの新居に落ち着いた。そして地味な新婚生活を、それなりに楽しんではいた。
 一年ほど経って、彼女が妊娠した。彼は地味に喜んだ。生まれた子供は男の子だった。惣一と名づけ、地味に育てた。彼が地味に見えないのは、バイクに乗っている時と、バンドでドラムを叩いている時だけである。彼女の方は、いつ如何なる時も地味であった。
 惣一は地味な両親に育てられただけあって、確乎りした子供に育った。彼の弟が剣道を教えてやった。惣一の下に、ふたつ離れた由希子という妹が居た。この娘も実に真面目であった。この環境下では不真面目になる方が困難である。
 子供たちは父親を純粋に尊敬していた。不言実行、謹厳実直、質実剛健。背広を来て仕事に行くことはないが、その背中は頼もしかった。手を上げたり怒鳴ったりすることもない。べたべた優しくする訳ではないが、だからこそ信頼出来る。妻もそう思っていた。

      +

 バンドの他のふたりは彼と同じように結婚していたが、玲二には子供が居なかった。棠野は彼と同じく二児の父となっていたので、時々子供の話をした。棠野の子供はふたりとも女で、かなりやんちゃな性格をしていた。父親がそういう子供だったので、遺伝かも知れない。
「おまえ、子供にもそんな調子か」
「そんなって、どんなだよ」
「仏頂面で、無愛想で」
「まったく笑わない訳じゃないだろ」
「笑いもしなかったら病院連れてくよ」
 それを聞いて、玲二はくすくす笑っていた。
「おれを連れてく前に玲二を連れてけ。病院じゃなくて禅寺とかに」
「それはいいかも知れないな」
 笑ったばかりに自分へ矛先が向いてしまった玲二は、彼らに背中を向けた。が、「おい、聞いてんのか」と、棠野に蹴りを入れられてしまった。
「乱暴にするなよ。骨でも折れたら桐島ちゃんに怒られるぞ」
 玲二にだって優しいのだ。
「おまえ、おれに過保護にするなっていつも云ってる割には、よく玲二のこと庇うよな」
「弱いもんに辛く当たるのが嫌いなだけだよ」
「辛く当たってなんかねえよ、なあ」
「……そうかな」
「そうかなってなんだ、馬鹿」
「棠野はすぐ馬鹿って云う……」
 慥かに玲二と接している時、苛立つと棠野は馬鹿とよく云う。云われても仕方がないので、責めてはいけない。
「馬鹿って云う奴が馬鹿なんだよ、玲二」
「そうだね」
「おまえって奴は……」
 温順しい割にはずけずけとものを云う男だ。棠野の庇護のもと、ぬくぬくと生きてきたのだから、恩知らずもいいところである。棠野が玲二の首を絞めるのを、今度は彼も止めなかった。殺す訳がないからだ。
 彼は無駄なことを一切しない。自分に厳しい、余剰を省いた性格の、エコロジストのような男なのである。

     +

 中学に上がった息子の剣道の試合を見に行った時、同級生も上級生も順調に仆してゆき、他校の主将と手合わせすることになった。息子は負けた。悔し涙に暮れる子供に、「負けて良かったんだ」と彼は云った。
「どうして?」
「勝ってばかりじゃ自分の欠点に気がつかない。おまえには隙があった。だが、向こうにも隙はある。その隙をおまえは見つけられなかった。それを見つけられないまま勝っても意味がない。負けても立ち上がって、相手の姿をよく見ろ。完璧な人間は居ない。勝負の時は相手の弱い部分を見抜いて、自分の強さを引き出さなければならない。それは卑怯なことじゃない、判るか」
 恰好いいことを云うものである。こんなことを云ったら女房も惚れ直す。漏れ聞いた他の女も惚れてしまうかも知れない。惚れたところでどうにもならないのだが。
 彼は、息子に語った勝負の極意のような生き方をしていた。正々堂々と人生に立ち向かっていたのである。だから玲二の姿を歯痒く思ったのだろう。
「今日、いいことを云いましたね」
「何が?」
「惣一が負けた時に」
「別に普通のことだろ」
「なかなかあんな風に云えませんよ、子供が泣いてる時に」
「泣いているから云ったんだ。負けて泣いたところでどうしようもならない」
「誰でも負けたら悔しくて泣きますよ」
 勝とうが負けようが泣いたことのない男にそんな心情は理解出来まい。強いのもほどほどにしないと、ひとの気持ちが判らなくなる。が、優しい部分も大いにあったので、それをカバーすることは出来ていた。フィリップ・マーロウが云った、「強くなければ生きてゆけない。優しくなければ生きる資格がない」というやつである。要するに、ハード・ボイルドなのだ。固茹で卵のように衝撃に強く、柔軟性があり、滋味も備えている——柔軟性はあまりないか。
 この数年後、惣一が大学生になってから棠野の次女である奈津子と駆け落ちをして、大騒動になった。沈着冷静な車折もさすがに動転し、同じドラマーで子供の年も性別も一緒の知人に相談をした。しかしまあ、事件はふた月足らずで収束し、息子と娘は無事、華燭の典を挙げた。
 一時は関係が崩壊するほど険悪になった父親同士も、苦笑いを浮かべながら子供たちを見送った。
「奈津子ちゃん、きれいだな」
「当たり前だろ、おれの娘だ」
「あれ、自分に似たら不細工なるって云ってなかったか」
「秋子に似てくれて良かったけど、それでもおれの娘だ」
「惣一もおれの息子だよ」
「真面目でいい奴だな」
「そう思ってくれるか」
「そう思ってたよ」

      +

 娘は中学に上がると、父親の影響からか音楽に興味を持ち出した。バンドなんか始めたら碌なことにはならないと思い、惣一のことを相談した知り合いのバンドメンバーに助言を受け、ピアノを習わせることにした。
「中学からじゃ遅いような気がするけど、プロになるつもりじゃねえんなら、ピアノなんかどうだ」
「そんなもの、買う金も置く場所もないですよ」
「アップライトピアノなら邪魔にならないし、キーボードだったら中古で安いのがあるし、教えられそうな奴も知ってるよ」
 そうして紹介されたのが、彼より四つ下の樹玖尾洋一という男だった。玲二と趣きは違うが、実に温順しく控えめな人物であった。三人の子供が居るという。
「ぼくは独学なので専門的なことは教えられないんですけど、構いませんか」
「弾けるようになれば自分でなんとかするだろう。君の子供は弾くのか?」
「娘ふたりは弾きます。ぼくはクラシックを弾いたことがなかったんですけど、教則本を買ってきて教えました」
 彼は楽譜など読めないし、鍵盤楽器に関しては門外漢なので、すべて樹玖尾に任せた。由希子は父親譲りなのか音感に優れ、飲み込みも早く、一年でメトードローズからル・クーペのラジリテに進み、教え手の趣味からギロックの叙情小曲集、アレンジされた日本の童謡、それと平行してツェルニーの100番、ブルグミュラーの25番、ソナチネを経て、高校へ入る頃にはモーツァルトやベートーベンのソナタを弾くまでに上達した。
 独学で此処まで教えられる人間はあまり居ないだろう。樹玖尾洋一は真面目で辛抱強い、努力のひとだったのである。ふたりの娘は自分の子供ではない。ひとりの父親は母親を棄てて逃げ、もうひとりの父親は誰だかも判らない。それでも自分の子と変わらぬ愛情を注いで育てていた。
「ぼくが由希子ちゃんに教えられることはもうないです。才能があるから、ちゃんとした先生についた方がいいんじゃないでしょうか」
 そう云われて、彼は考え込んでしまった。惣一は父や弟のような警察官になりたいと云っている。ピアノを弾く由希子は果たしてピアニストになりたいのだろうか。それは彼の想像の範疇外にある職業だった。彼にとって仕事とは、何かを作ったり修理をしたり、ひとの為になることをしてその報酬をもらう。それ以外の意味合いはなかった。
 音楽を奏でることも、ひとの心を癒す職業になり得るのだが、そうした発想は彼にはない。
 で、再び音楽に詳しい知人に相談してみた。
「そんなこと相談されてもなあ。おれだって趣味で音楽やってるだけだし、プロのことなんか判んねえしなあ。まあ、教師になるにしても音楽学校は出ておいて損はないから、娘とよく話し合ってみたらどうだ」
 音楽学校といってもピンからキリまである。肩書きがあればプロとしてやってゆくにも教師としてやってゆくにしても有利だと云われたので、娘に音楽大学に進みたいかと訊ねてみた。
「そんな処に行けるほど知識も技術もないし、わたしはちゃんと就職してお父さんやお母さんを安心させたい」
 ああ、なんと出来た娘なのだろうか。由希子はピアノは趣味に留め、大学は行っておいた方がいいと云う父親の言葉に従い、短大へ進学した。
 地味な家庭ではあったが、そこには幸福の灯りがある。その灯火は小さいものかも知れないが、家族を照らすことは出来た。それだけでいいではないか。

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