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ひかり。
「来年になったら蛍を見に行こう」
そう約束してから一年が経った。
長い長い一年だったね、と話しながら公園を歩く。
私と彼女の間にはあまり会話はない。
話すことがないのではなくて、話さなくてもわかるだなんて詭弁だけれども本当にそうなのかもしれない。
蛍が出てくるまでの間に交わされた私たちの会話はたった二言程度だった。
「自然の蛍なんてそんな見れるもんじゃないよね」
「でも、ここなら見れるから」
そこまでして彼女が見せたかった理由を私は痛いほど理解している。
失ったものを受け入れようとした時、誰かが身代わりにならなきゃいけない。
これは通過点だ。
蛍が姿見せはじめた瞬間、歓声が上がった。
小さな、光。
誰かがその光を掴もうと手を伸ばす。
必死にその姿を追うカメラたち。
掌からするりと抜ける小さな光。
安堵した。
捕まえられなくて。
捉えられなくて。
余りにもか細い綺麗な光だったそれはきっとカメラには収まらない。
「灯火はか細いものだから」
そう言い放って前を歩く彼女に似た悲しみを覚えた。
蛍の光は思った以上に小さかったけれど、眩かった。
目映かったんだ。
命の表現の代わりに蛍を使う理由がわかった気がした。
あの光は強くて美しい。
それぞれの命も平等に美しい。
私たちは酷く汚い世界を見てきたはずだけれど、まだ美しいものは残っていたんだよと伝えていたならきっと明日はきていた。
明日はきっとくる。
あの手に捕らえられなくて良かった。
君はもう自由だよ。
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