ミッション:デパ地下の買い物

 私はあらゆる物事に非常に影響されやすいです。例えば、自分の書く文章がそのとき読んでいる本の文体になんとなく寄ってしまったり、ミュージカルを観た直後だと、何気ない会話もミュージカル調になってしまったりします。
 大抵は自分が涙もろくなったりちょっと陽気になったりするだけで、他人に迷惑をかけるようなことはないのですが、一個だけ、「ちょっとこれは困るな、いかんよな」、ということがありました。

 一昨年、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を映画館へ観に行った時です。ちょっと奮発してプレミアムシートで鑑賞しました。最後列の高級感あふれる革張りのシートにゆったりと腰を落とし、両隣をパテーションで仕切られているため周囲に遠慮することなくびっくりできたり、身を乗り出したり、スクリーンから顔を逸らしたりすることができました。
 鑑賞後の爽快感は普通のシートの比ではありませんでした。次に派手なアクション映画を見るときも絶対プレミアムシートにしよう!と満足して映画館を後にし、ついでの買い物に近くのデパ地下食品売り場へ向かいました。

 休日夕方のデパ地下、それはある意味戦場でした。平日では食卓にのぼらない、ちょっと豪華なお惣菜を求め歩く人々で混み合い、大混雑の芋洗い状態。前に進むのも困難な状況で、私の脳内にはあの5拍子のテーマが流れ出してしまったのです。

 まさに、ミッション:インポッシブル。ターゲットは限定柿ピーと、天むす。この人混みの中、そして緊張感あふれる音楽が頭の中を支配する中、自分と他人の安全を確保しながらターゲットを確実に捕らえなければならない。エスカレーター近くの限定柿ピーは残り僅かのところでどうにか捕獲。次は天むす。フロアの一番奥に店舗がある。そこにたどり着くまでには難関、中華総菜の店舗がある。夕方の書き入れ時なのか、大声で呼び込みをしている。タイムサービスが始まったようだ。大きな人の流れができ、大勢の人が滞留している。そこを安全に、かつスピーディーに通り抜けないと、ミッションが達成できない。天むすは売り切れ必至なのだ。

 普段であれば、何物にも影響を受けていなければ、のんびりと買い物を楽しむことができるのに。中華総菜を眺め、「天むすが買えなければ手羽先でもいいじゃない」と、ゆったり歩けるのに。人にぶつかりそうになるたびに不自然に体を傾けて速足で歩いたりしないのに。無駄にいい姿勢でレジ待ちしたりしないのに。

 すべては、トム・クルーズに影響されたから。

 もうこれからは、映画を観た後はまっすぐ帰宅しようと思いました。自分と周囲の人の安全のために。

記事をお読みいただき、ありがとうございました。よろしければサポートいただけると嬉しいです☆