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イースターのミサ: 歌手のメンタルケアの話

今朝はイースターのミサで歌ってきた。

ルツェルンのとある教会で、曲目はMichael Haydn《Missa brevis a tre voci》からの抜粋。

Michael Haydnは名前も曲も初めて聴いた作曲家である。こういう機会に知らないものと思いがけず出会えるのは、何と言ってもワクワクするジャンプインの醍醐味だ。
1週間ほど前に出演が決まり、数日前にリハーサルがあった。

今回はそのリハーサルのときにメンタル調整を大失敗してしまい、コーラスの皆さんに下手くそな歌をきかせてしまった話。


私が仕事でソロを歌うときに最も大事にしているのが、メンタルケアなのである。

私は近年ひどいあがり症の持ち主で、一旦“あがりモード”に入るとうまく歌うのが難しい状態になってしまう。
それでも、この歌手人生の中で自分なりに対策を考え、試し、そして自分に必要なものを見極めてきた。
あがり症対策は、人によって合うもの合わないものがあり、それを見つけるのにも大抵は長ーい時間がかかってしまうものなのだ。

演奏の仕事は、どこかに所属していない限り、毎回違う団体や演奏家たちとすることになる。
これは結構なストレスだ。毎回、自分がどれくらい歌える人間なのかを評価される瞬間があるということだから。

(ここにいる全員の耳が私の第一声に大注目している!)
(皆の期待に添えなかったら?)

こんなことが頭をよぎるだけで、アガってしまうのにはもう十分すぎるストレス値だ。

その一方で、こんな自分もいる。

(あがって崩れてもバレないくらいには十分練習してきたから大丈夫)
(自分の歌の技術は、信頼できる!)

こちらもまた、私の本心である。

人に歌を聴かせるときにはいつも、この2つの拮抗勢力が頭と身体を支配して戦っているような感じだ。

今回のリハーサルのときには、不安勢力のほうが信頼勢力よりもやや勝ってしまった。

私が一番緊張するのは、第一声をお聴かせする瞬間である。
ここで、すべてが決まるッッッ(ジョジョ風に)
と身構えてしまう。

そんなに追い込まなくても良いのにねぇ~。

そして、どういった環境の舞台で歌うかもまた、大事な要素となる。

広いか狭いか、天井は高いか低いか、壁は自分から近いか遠いか、残響は多いか少ないか。

歌っているときに自分に聞こえてくる音は、部屋の条件によってずいぶん違う。

練習時とあまりにもかけ離れた会場だと(残念ながら大抵はそうだ)、いつも通りのフォームで歌っても耳からの情報が違うので、混乱してしまいいつもと違うことをやってしまう。しかもその、“いつもと違うこと”は、100%良くないことである。断言しても良い。

混乱する原因となる耳からの情報を遮断するために、耳栓をつけてリサイタルをしたという猛者を知っている。彼女の伴奏をしたのは、よっぽど信頼できる、ツーカーの共演者だったに違いない。

話はもどって、今回は

・初めての団体
・初めての会場
・練習時とリハーサル時のテンポがけっこう違った

ことが不安要素となり、合わせの前半はフォームが崩れてしまった。

ここで初めてテンポの話が出てきたが、いろいろなテンポで練習しておけば、どんなテンポがきても動じずに対応できていたはず。次回から気をつけよう。

数日前は自分が出した第一声に仰天し(これは毎回のようにやっている気がする)、フォームが崩れてしまったが、段々と慣れてきてフォーム修正を重ねたリハーサルとなった。

そのおかげで、今日の本番ではリラックスして実力を発揮することが出来た。

やっぱり、環境のせいで実力が出せないのがいちばん悔しいですよね。
そんなネガティブなことも仕事の一部、と考えて、失敗してもあまり落ち込まないでこれからも歌いつづけていきたい。


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