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三鷹歌農書 1761-1780

薊馬のソングラインを見下ろせり蓮のはなびら一枚のうへ
三鷹歌農書(一七六一)
花托から果托に変はりゆく蓮の精を取らむと砂糖をまぶす
三鷹歌農書(一七六二)
果托ごと蓮を発酵させむとしドゥアムトエフの壺を思へり
三鷹歌農書(一七六三)
生け捕りの彗星壜にしゆわしゆわと蓮(はちす)の花の酵素シロップ
三鷹歌農書(一七六四)
長老が去れば若きら育つものズッキーニ太り過ぎたるは取れ
三鷹歌農書(一七六五)
薄明の空のあかるさおもはせてブルーベリーの色づき始む
三鷹歌農書(一七六六)
力づよき黒へ赤から緑から道は違へどベリーとブドウ
三鷹歌農書(一七六七)
星団も友情も生まれては滅ぶブラックベリーの房の熟れつつ
三鷹歌農書(一七六ハ)
液体の一輪甘みの花びらに苦味の蕊の蓮のシロッ
プ三鷹歌農書(一七六九)#短歌
散るばかりなる青バラにルバーブの護衛を付けて鍋に送りぬ
三鷹歌農書(一七七○)
ジャムにして現在価値を確定す傷なしに実らざらむを煮詰む
三鷹歌農書(一七七一)
突風に折られ塔ではないことに気付くキウイのシュートがわたし
三鷹歌農書(一七七二)
わうごんの柱なにゆゑ立つたると近づけば化けし加賀太胡瓜(かがぶと)だつた
三鷹歌農書(一七七三)
採らざれば象牙のやうになりたるを見せてもらへり大和三尺胡瓜(やまとさんじやく)
三鷹歌農書(一七七四)
武蔵野を掘り続ければインカへとばれいしよ農林五十八号
三鷹歌農書(一七七五)
ジャガイモを丸ごと揚げて噛み潰す守る皮守らるる身も一口に
三鷹歌農書(一七七六)
球体はエビガライチゴからクリへ毬の膨らんでゆく七月
三鷹歌農書(一七七七)
シソに巻きトウガラシの弾ウリに込め鉄砲漬の水平二連
三鷹歌農書(一七七八)
実もヒゲも皮も芯までもあかあかと大和ルージュは色を通せり
三鷹歌農書(一七七九)
頭骨とも日の光ともしろたへの夏の野菜の白の字源は
三鷹歌農書(一七八○)


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