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僕が超能力者だというコトについて

「まーたバカなこと言ってんなコイツ」

タイトルを読んでそう思った方は、できればすぐに謝ってほしい。悪いことは言わない。形だけでもいい。あなたのその傲慢な態度が僕の逆鱗に触れてしまったら、僕はあなたを消してしまうかもしれない。

僕だって怖い。自分が。自分の中に眠っているエスパーが。仮に僕が人生に絶望して「世界を滅ぼしたい」と思ったら、逆ビックバンが起きて万物が無に帰する可能性だってゼロではない。だから僕はそんなことを思わない。思いたくない。いや、どうか僕にそんなことを思わせないような素晴らしい世界になってほしい。

こんにちは。松真ユウです。

正直、このアジトで過去に書かせてもらったコラムはそのすべてがネタだった。エロDVDの借り方について書いたり、ティッシュの注意書きについて書いたり、今思えば親族には絶対に読ませられないようなバカバカしいコラムばかりだったと思う。でも今回は違う。すべて事実だ。僕は超能力者(特質系)であり、僕の超能力は人智を超越している。この事実が世に知れ渡ったらどこぞの国家に利用されるかもしれない…そんなリスクに怯えながら、僕は今このコラムを書いている。改めて言う。これから書くことはすべて事実だ。僕のことを信じられる方、もしくは僕に消されてもいい方は、覚悟を持ってこのまま続きを読み進めてほしい。

僕が自分の超能力に気付いたのは、忘れもしない中学二年生の夏だった。

僕はサッカー部に所属していた。サッカーが特別好きだったわけではなく、しばらくやって飽きたら辞めよう…くらいの軽いノリで練習に参加していた。顧問の先生はダビデ像似のK先生。隣町の中学校で生徒の肋骨を折ったことがあるという、今なら2秒で社会から抹殺されるであろう経歴を持った鬼教師だった。

僕はK先生に心底ビビっていた。怠慢なプレーをして頭を殴られたこともある。練習に遅刻して太腿にローキックを入れられたこともある。機嫌の悪い日に至ってはただの八つ当たりで怒鳴り散らされることも多かったから、当時のキャプテンはよく「絶対に目を合わすな」というメデューサに立ち向かう戦士にしか言わないような言葉で部員達を鼓舞していた。

そんなある日の放課後。教室で友達とスリッパ卓球(ラケットの代わりにスリッパを使って卓球をするという画期的な遊び)に夢中になっていたら、またしても僕は練習に遅刻してしまった。

「やべぇ…殺される…」

走ってはいけないことでお馴染みの廊下を全力疾走で駆け抜け、急いでグラウンドの脇にある部室へ向かった。既に練習は始まっている。遠くにK先生の姿も見える。初遅刻の制裁がローキックだったということは、二回目の制裁はハイキックかもしれない。そう言えばK先生の髪型はミルコクロコップそっくりだ。練習着に着替えながら、助かるための言い訳を何十個も考えた。

「川で子犬が溺れてるのを助けてました」
「川でお婆さんが溺れてるのを助けてました」
「川で核家族が溺れてるのを助けてました」

ダメだった。使えそうなものは何一つ思い浮かばなかった。そもそも初めて遅刻した時は「放課後に英語のテストを受けていた」という立派な理由があったにもかかわらず、目が合うや否やローキックをお見舞いされた。メデューサに理屈は通用しないのだ。

ーーどうしよう。どうすればいいんだろう。

全方位から王手をかけられているようなこの逆境を打破する逆転の一手なんて、たぶん羽生善治でも思い付かない。要するに絶体絶命。できることなら「今のナーシ!!!」と叫びながら盤面を思いっ切りひっくり返したい。よくよく考えたら、本当にハイキックで済むんだろうか。タイミング悪くK先生があの日(機嫌が悪い日)だったら、隣町の誰かのように肋骨を折られるんじゃなかろうか。怖い。怖すぎる。震える手でスパイクの紐を結ぶ。その形は蝶々ではなくぶりぶりざえもんの鼻のような形を描いていた。

その時、屈んだまま不意に頭上を見上げると、棚の上にまぁまぁ大きなステンレス製のウォータージャグ(お茶やスポーツドリンクなどの飲み物を入れるサーバーのようなもの)が置いてあるのが目に入った。

それを見た瞬間、僕の毛穴とチャクラが開いた。

もしも、あのウォータージャグが、今この場で僕の脳天めがけて落下してきたら。そのことで僕がちょっとした怪我をしたら。K先生によってもたらされる地獄の恐怖を免れるかもしれない。この際、どっちの身体的ダメージが大きいか、といった計算は度外視だ。僕は怖いんだ。K先生の方が。

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落ちろ!!!

カッと目を見開き、僕は心の中でそう唱えた。次の瞬間、ひとりでに動き出したウォータージャグは僕の脳天を直撃し、僕はその場に倒れ込んだ。

明確に意識が戻ったのはその数時間後。

部室で倒れ込んでいた僕を友人が保健室に連れて行ってくれたらしい。とりあえず、頭のダメージよりも、肋骨が無事であることを確認し、絶体絶命のピンチを無事に乗り切ったことを素直に喜んだ。しかし、それと同時に謎の罪悪感に苛まれたのも事実。自分は超能力者だったんだ。自分は超能力を使ってしまったんだ。しかもこんなよく分からないタイミングで。自分のミスを帳消しにするためだけに。もしかして神龍にギャルのパンティーをお願いしたウーロンはこんな気持ちだったのだろうか。

K先生に事情を説明するため、急いでグラウンドに戻った。さすがに怪我人にムチを打つような真似はしないだろうと思いつつ、念のため腹筋に力をこめながら「すみません」と謝った。すると、目が合うや否やK先生は今まで見せたことのないような優しい表情でこう言った。

「大丈夫か?」

罪悪感が爆発した。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。あなたのことを血も涙もないただの鬼だと思い込んでいてごめんなさい。その瞬間、僕はこんなしょーもない理由で超能力を使うのはもうやめようと心に決めたのだった。

あれから約20年。

様々な経験を積み重ねて行く中で、何度か超能力を使いたいという欲望に負けそうになったことはある。大事な会議中にしゃっくりが止まらなかった時、回転寿司で狙っていた中トロが別のお客さんに取られた時、意中の女の子が別の男になびいた時…超能力を使えば、これらのピンチだって何もかもが思い通りになっていたに違いない。そして、今頃全く別の人生を歩んでいたに違いない。それでも僕が頑なに超能力を使わなかったのは、腐っても人でありたいから。超能力を使って手にした幸せなんて、きっと何の価値もないだろうから。

なお、ここまで読んでもまだ僕が超能力者であることを信じられないという方のために、20年振りに超能力を使ってこのコラムを終わりにしたいと思う。

信じろ!!!


文:松真ユウ
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