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金井美恵子『昔のミセス』雑感メモ。少女の自尊心と紋切型の感慨と森娘の膀胱。

『小公女』の中の、貧しい下働きの少女が〈小さな不器用な作りのピンクッションをプレゼントする〉というエピソードをなぜか好きなのだと金井美恵子が語るとき、そのエピソードが何かを暗示するものでも示唆するものでもなく、ただ〈貧しい少女のつつましやかな自尊心ともいうべきエピソード〉であることを金井美恵子が語るとき、例えば〈肉屋のお嫁さんの人生について、何の疑問もなく、地下の狭い店内で揚げ物を揚げつづけるだけの人生、と決めつけて、そのうえで、それを考えるとその変化のない平板そのものの無限とも思える連続に、耐え難さを感じて暗くなるという、言ってみれば鈍感さと繊細さが混った紋切型の感慨〉(『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』)の前ではそのような少女の自尊心など簡単に見過ごされてしまうだろうし、実際〈森娘〉というか〈小さな膀胱に尿を溜めて苦しんでいる女の子〉とそのぱんぱんになった膀胱は誰にも気にもとめられなかったのだし(『カストロの尻』)、紋切型の感慨も抱かなければ少女の自尊心も森娘の膀胱も決して見過ごすことのない金井美恵子が、いまなお重箱のすみから書きつづけている金井美恵子が、自分はやっぱり好きなのだ、と思う。

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