【ショートショート】 『涙鉛筆』
先が荒い刃になった鉛筆が売られていた。
『ティアーペンシル』と呼ばれていた。
「あ、これね。失恋した人がラブレターの返信を書くものだよね」
そんな話をしていた。
「ああ、テアーペンシルね」
「せんぱーい、発音が悪いっすよ。ティアーペンシルですって」
するとノムノ先輩はため息をついた。
「シャープペンシルは電機メーカーのシャープが発明したってのは知っているかな。元は早川式繰り出し鉛筆と言われていた。なのに、『鋭い鉛筆』という和製英語だと勘違いしている人がよくいる」
「は、はあ。鉛筆つながりではありますが、強引に話題を変えましたね」
「これも同じだってことだよ」
「へ?」
「ティアーは涙だ。同じ綴りでも、これはテアー。破る、という意味だ。これは本来、美術で紙に傷をつけるために作られたんだよ。涙ながらに書く鉛筆じゃないよ」
「ええー!」
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