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【精神科講談(1)】 『ビューティフルマインド(一)』

 ノーベル賞の中には、ノーベル数学賞というのは御座居ません。これはノーベルが好きだった女性を奪った恋敵が数学者で、もしノーベル数学賞を設けると、確実にその数学者が受賞するだろうと噂されていたので設けるのをやめた、等と云う説が御座居ます。まあ、本当かどうかはさておき。

 数学者でノーベル賞を受賞した人と云えば、ジョン・フォーブス・ナッシュと云う人が居ます。彼はゲーム理論という数学の理論の業績で、1994年、ノーベル経済学賞を受賞したのであります。


 二十世紀半ば。アメリカのピッツバーグにある、カーネギー工科大学の数学科長で、若い教授や学生に人気であったジョン・シングが、ある日、相対性理論の講義をしておりました。

「誰か、此の問題に挑める猛者は居るかな?」

「任せて下さい」と一人の学生が立ち上がりました。

「おや、君は数学科教授達の間で「若きガウス」などと呼ばれて噂になっている、ナッシュ君だね。どうやって解く?」

「実はテンソル解析に対し、アーミーマー方程式を繰り込み、ダッフンダー積分すれば、ダイジョブダー解が得られるのではないかと思って居ました」

「それはユニークだな。ぜひヘンナオジサンでアイーンしてみなさい」

 って数学者の云う事は素人にはてんで解りませんが、シングに言われてナッシュは黒板に式を書きます。

「面白いじゃないか。よし、君。後で僕の部屋に来給え」

 授業の後ナッシュが教授室に行くと、シングだけでなく他の数学科の教授達がずらりと並んで居ました。

「君は化学科の学生なんだってね」

「エエ。実は教授の助手なんですが、教授から見込みが無いってCを貰いました。でも僕は、教授が根本的に間違って居ると思います」

「そうか。噂に聞く生意気っぷりだなあ。では数学を専攻しないか? 私達は、君に是非数学者の道を歩んで欲しいんだ」

 さァ優れた数学者達の強い説得に押され、

「イヤァ、数学なんかでは食って行けませんし」等と云っていたナッシュも、何時しか夢中で数学に取り組む様に成ります。


 やがて、プリンストン大学の数学科長、ソロモン・レフシェッツが

「貴君の様な将来有望な人物が、まだ若くて柔軟な心を持っている内に、当学に来て欲しいのだ。何と成れば、ケネディ奨学金の提供を考えている」と云う手紙を送って来たので、ナッシュはすっかりその気に成り、プリンストン大に入学します。当時のプリンストン大学は、超一流の学者、アルバート・アインシュタイン、フォン・ノイマンなんて云う面々が居たりして、数学における宇宙の中心とまで言われて居ました。

 此処でナッシュが発表したのが『N人ゲームにおける均衡点』『交渉問題』『二人協力ゲーム』と云った、後のノーベル経済学賞の対象になった論文で、解りやすい様に極く簡単に説明致しますと・・・簡単には説明できない、と云う事で御座居ます。経済学や社会科学、更には生物学に迄大きな影響を及ぼす事に成る理論では在ったのですが、当時はナッシュ本人も、まさかそんな事になるとは夢にも思って居ませんでした。


 さてこの後ナッシュはMIT、マサチューセッツ工科大学に移り、そこで運命の人と出遭うので御座居ますが・・・


 丁度時間と成りました。続きはまた明日と致します。


Ver.1.0 2020/5/24

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