見出し画像

司法と犯罪の備忘録(1)

犯罪被害者週間(11月25日〜12月1日)に書きたいと思ってそこから大きく遅れてしまったが、福祉と援助の備忘録の犯罪の話を、学習理論備忘録や福祉と援助の備忘録から独立させて書くことにする。今回は被害者支援とまたPTSDの話である。衝撃的な内容も含むので、専門的な話に関心がない方には読むことは勧められません。ご注意を。


まず自らの性被害体験を著書で明らかにした小林美佳さんの講演からの文章を引用する。

……私の格好は、シャツははだけていて血がついていてベルトが切れている。そんな自分とすれ違ったら、周りの人はどう思うだろう。みっともなくて恥ずかしいと思ったので、私はライトの当たらない暗いところを求めて歩き続けました。ベンチを見つけては座るのですが、座った途端にまた体が震えてきて、それと向き合えない私はまた別の暗いところを探して、人から隠れるようにして歩いていました。……
(平成23年度「犯罪被害者週間」国民のつどい実施報告新潟大会:基調講演より)
https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/kou-kei/houkoku_h23/niigata_giji_kicho.html


これを読むと、多くの医療者にとって意外な点もあるのではないだろうか。


・着衣が破れている、体も傷ついているといった、性被害の直後にも大変な状況は続いている
・被害者が恐怖におののいているばかりとは限らない。小林さんの場合、被害を受けた後、恥ずかしさを抱いて歩き続けた。
・すぐ近くにいる人を頼ろうとせず、むしろ暗いところに隠れるようにしている(実は小林さんはこの後警察官を見かけるが、それさえも避けている)


ここで私が学んだ、犯罪被害者ついて一般的に言われていることをいくつかまとめておく。

・法務省の努力もあり、犯罪被害は2003年頃をピークに減っている。それでも犯罪白書令和3年版によると我が国の交通事犯を除く犯罪被害による死傷者は年間700人近く、1日に2人程度もいる。強制性交等罪も暗数を除いても1200件以上ある。
・被害後に次のようなことが起こりうる
   自分が自分でないような感覚(解離)
   ネガティブな感情(怒り・恐怖・抑うつ等)
   神経が興奮する(危機反応)
・警察庁の犯罪被害類型別調査によると、犯罪被害者等(過去に暴力犯罪を受けた人や交通事故・殺人の遺族)は、重度の精神障害にかかる人が多い(特に殺人・傷害)
・犯罪被害者、特に強制性交の被害者に多い精神疾患はPTSDであるが、そこに恐怖症や強迫症、アルコール使用傷障害、海外では薬物使用障害など、他の精神疾患を合併することも多い。
・自殺リスクが高く、見過ごせない


犯罪被害者だからといって、PTSDと診断されるとは限らない。それでも、他の精神疾患に罹患する割合は高い。また犯罪被害にあった方は一般に思われているのとは違って、一見落ち着いて見えることがある。心の内では困惑・困惑しながらも表向きはそう見えないということかもしれないし、解離があるのかもしれない。


医療者が犯罪被害者・遺族のケアをするのにあたって、急性期にはPsychological First Aidと呼ばれるものが推奨されてはいる。これはかつて災害時になされたデブリーフィングのような特別変わった介入とは違い(その効果は今は完全に否定され、有害視されている)もっと常識的なものだ。

いたずらに他人様の被害体験をほじくるものではないというのは、真っ当なセンスがあれば判ることだ。トラウマに焦点を当てる治療の話が変に広まりすぎているが、そのような介入は被害者の安全が保障された時期に、腕のあるセラピストのみに許される。そこが守られないと、被害者に多大な二次被害をもたらす。


犯罪被害が減少に転じた時期と同じ頃(2004年)犯罪被害者等基本法ができ、犯罪被害者等が専門家の治療を受ける機会が増えた。だが医療者は犯罪被害者のことをまだよくは知っていないとういのが現状である。


おそらくだが、医療者には非常識な人が多いのではないかと思う。それならそれで、勉強を重ねるしかないだろう。それも、自分たちが相手にする当事者の声を聴く機会を増やすことである。ただでさえ傷つきうる人々を、医療者はさらに傷つけやすい立場にあるのだから。



Ver 1.0 2022/2/20



#司法
#犯罪
#犯罪被害者
#PTSD
#精神疾患
#2022年の学び

学習理論備忘録(40)はこちら。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?