見出し画像

家具屋くんとの思い出をたどる②

私に呪いを掛けた男、家具屋くんの思い出をたどる記事第2弾。

****************

家具屋くんとはどうも同学年だったことが、一緒に過ごしていて分かった。
私はウサギ年、彼は辰年、早生まれ。多分2月生まれ。
そんなわけで、フランクに話してもいい相手だと思ってた。

ただ、テキストのやり取り上、ずっと敬語だったのは気になってた。
口頭ではタメ語だけど、テキストはずっとです・ます調だった。
気になって少し聞いてみたら、誰でもやりとりは大体敬語なのだと言っていた。
そういう性格なのかな、と思ったけど、どこか距離を感じた。私はちょっとだけタメ語で会話をしようと試みたけど、相手はずっと敬語だったから、敬語に戻った。

最初に会ってから、もう一度会おうとなるまでそんなに期間が空かなかった。ただ、指定された日が生理期間中だったので、セックスはできなそうだった。
セックスができないなら、日を改めたほうがいい?と尋ねると、別にただお茶をするだけでもいい、と返信が来た。
私はますます、彼とどうやって折り合いを付けたらいいかわからなくなった。
わからなくなったというより、何かまっとうな関係になれるのではないかと、期待すらしていたのだと思う。

家具屋くんとは新宿駅で会った。待ち合わせ場所で見つけた彼はやっぱりかっこよくて、わりと人だかりはあったはずだけど、すぐに見つけることができた。
彼がオススメする中東系のランチを食べて、新宿の街を少し散歩した。そのさなかで、彼の仕事の愚痴や、彼が今していること、彼が今後やりたいことを聞いた。
おしゃれで、洗練とされていて、味があって、目が離せない。彼の一挙一動が、立ち振る舞いが、語る言葉すべてが、魅力的だった。

途中で寄ったカフェで、一緒にコーヒーを飲んだ。
彼はこれから、仕事に行くのだという。その時間が刻一刻と迫っていたから、彼が仕事に遅れてはならないと、だけど彼といられる時間をしっかり確認したくて、度々時計に目線を落とした。
「どうして時計ばかり見てるの?」と言われた。
「仕事に遅れたら大変でしょ?」と言った。
「気にしなくていいよ」と彼は笑った。そして、彼は私の手に触れた。

正直、まともな恋愛体験をしてこなかった私は、どうしたらいいかわからなかった。
まともに言葉もでなくて、気の利いた返事もできなくて、もどかしくて、間違いなく幸せだった。
これが恋なんだろうなと、自覚するには十分すぎるほどの高揚感が、冷静さを頭から押し流していった。

今思えば、彼は女と過ごすひと時にロマンを求めるタイプで、長続きさせるつもりがなくても、そういう振る舞いをするのが得意な男だったのだと思う。ただそれだけだったんだろうと思うのに、そう言い聞かせることすらできなかったのは、その時まさに、私は盲目だったからなのだろうと思う。

家具屋くんがそろそろ仕事に行くというので、新宿駅で解散しようとした。そのとき、彼のスマホに着信が入ったようで、私は邪魔してはいけないと思い、すぐに踵を返して改札に向かおうとした。

その時彼は私の手を引き、このまま帰るのは味気ないでしょ?と言った。
そして、結構人であふれていた新宿駅の改札前で、人目を気にせずキスをした。1回目は軽く。2回目は深めに。

頭がぼんやりとした。もやがかかったようで、思考がおぼつかない。
私は帰路につきながら、彼に感謝の言葉を伝えた。
その1週間後、また会う約束をした。
次は生理が明けた後だから、楽しくセックスしたいね、なんて。
セックスで関係を繋いでいるという事実に、酷く不安になりながら、彼とのやり取りをどうにか繋いで、次に会う日を心待ちにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?