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【長編小説】 初夏の追想

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30年の時を経てその〝別荘地〟に戻ってきた〝私〟は、その地でともに過ごした美しい少年との思い出を、ほろ苦い改悛にも似た思いで追想する。 少年の滞在する別荘で出会った人々との思い…
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#祖父

【長編小説】 初夏の追想 4

 ――私がその土地を初めて訪れたのは、三十五歳を迎える年のことだった。当時ひどい胃潰瘍を…

【長編小説】 初夏の追想 7

 ――どのくらいそうしていただろうか。多分、一分間ぐらい、いや、わからない――なぜなら、…

【長編小説】 初夏の追想 13

 ……心から気の合う仲間を見つけるということは、意外にも難しくて、その歳になるまで私はそ…

【長編小説】 初夏の追想 20

 私は再び犬塚家の別荘に戻った。平生通り、祖父は一切のことに無関心だった。あちらに行くと…

【長編小説】 初夏の追想 24

 その後、私は山を降りた。犬塚家の人々がそれからどうなったのかは知らない。  胃潰瘍の症…

【長編小説】 初夏の追想 25

 ――今朝のことである。私はこの屋敷に到着してから初めての来客を迎えた。  昨夜その人の…

【長編小説】 初夏の追想 27

 守弥がパリへ渡った翌年の、五月の初旬のことだった。犬塚夫人はいつものように休暇を開始するために、あの別荘を訪れていた。裕人も付いて行く予定だったが、仕事の都合で二、三日遅れることになった。  別荘地には誰もいなかった。その近隣では、向かいの建物に私の祖父が絵を描いているくらいだった。  犬塚夫人は別荘に着くと、裕人が到着するまで独りで過ごした。そのあいだ、連絡もなかったけれど、普段と違ったことは何もないと思っていた、と裕人は言った。 「ところが……」  裕人は言いながら気色

【長編小説】 初夏の追想 29 最終回

 ――鑑定の結果が送られてきたあと、守弥は私に電話してきた。  私たちは、時を忘れて語り…