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【長編小説】 初夏の追想

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30年の時を経てその〝別荘地〟に戻ってきた〝私〟は、その地でともに過ごした美しい少年との思い出を、ほろ苦い改悛にも似た思いで追想する。 少年の滞在する別荘で出会った人々との思い…
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#別荘

【長編小説】 初夏の追想 2

 ――それは、人里離れた山の奥にひっそりと建っている、かつての別荘だった。  いまではす…

【長編小説】 初夏の追想 4

 ――私がその土地を初めて訪れたのは、三十五歳を迎える年のことだった。当時ひどい胃潰瘍を…

【長編小説】 初夏の追想 6

 ――恍惚とした感動に浸っていた私の耳に、突然、砂利道を走る車の音が聞こえてきた。 「何…

【長編小説】 初夏の追想 10

 犬塚家の別荘に招かれたのは、五月の中旬のことだった。  玄関のチャイムを鳴らすと、す…

【長編小説】 初夏の追想 17

 ――蝉の幼虫が、地中における七年間の精進の末ついに地上に出ることを許され、成虫となって…

【長編小説】 初夏の追想 20

 私は再び犬塚家の別荘に戻った。平生通り、祖父は一切のことに無関心だった。あちらに行くと…

【長編小説】 初夏の追想 25

 ――今朝のことである。私はこの屋敷に到着してから初めての来客を迎えた。  昨夜その人のことを書いたばかりなので、言霊が呼んだとでもいうのだろうか、玄関の呼び鈴が鳴ったのに驚いて出て行くと、扉の向こうに立っていたのは、何と篠田その人であった。  「ご無沙汰しています」  屋敷に上がりながら、篠田は紳士らしい仕草で、被っていたパナマ帽を脱いだ。いまでもこの土地に別荘を所有している数少ない人士の一人である彼は、噂に私がこの建物を買ったことを聞いたという。  思いがけない来客にあた

【長編小説】 初夏の追想 27

 守弥がパリへ渡った翌年の、五月の初旬のことだった。犬塚夫人はいつものように休暇を開始す…