統一教会の脱会二世さんたちの心のケアについて

(twitterでの脱会済みの宗教二世である「神」さんという方とのやりとりの続きとして書きました。)

本当はtwitterでのやりとりの初めにするべきだったのですが、改めて自分の立場について説明します。
自分としては、直接のコミュニケーションとして被害者の方たちのケアになるような関わり方を、私のような程度の覚悟ではできないと思っています。「具体的にこうすればいいよ」みたいな即効性のある対処法を私が提案するのは難しく、それは腰を据えて取り組んでいる献身的で専門性のある弁護士の方たちのような人でないと無理だと思っています。

そのため部外者である自分にできるのは、まずは、教会への擁護をしたり、被害者への攻撃をしている者たちについて批判・反論を行っていくという感じのことかなと。そういう風にして被害者の二世の方が理不尽を感じる局面を少なくしたり、また自信を持って自分の考えや行動は正しいのだと思えるような環境を社会の側として整えていくというか。
もっとも、先日は結局神さんのしていたやりとりに口を出す形になってしまいましたが、あれも一応「他の方への批判」と言う形をとってやっていたつもりです。
この線引きを越えて入り込むと、私自身が二世の方たちのメンタルと一体化しすぎてしまうと言うか、巻き込まれすぎることになってしまって冷静さを保てず、「何でこうしないんだ」などと不満を感じた際に、罵倒などのより攻撃的な口ぶりで二世の人たちを攻撃してしまう可能性が高いからです。

実際、そういう風になって不必要な攻撃を加えてしまったことが過去にあったため、まずいなと思い、それを繰り返さないためにもこういうスタンスを選ばせてもらっています。今回当該のスレでも入り込み過ぎてちょっと逸脱気味だったと思います。申し訳ありません。
なので、脱会二世さんたちのメンタルのケアは、私以外についても市民が個別に根本的対策を講じようと活動するということにはあまり賛成ではありません。

では何ができるのかと言うと、献身的な弁護士の方たち、という例を挙げましたが、弁護士に法的な問題のケアを任せるように、精神面のケアはそれとはまた別の専門家の手を借りた方がよいのではないか、ということです。

たまたま神さんが、ツイートで
「結局そういうケアは教団の内部を知っている現役信者や、元信者である脱会した二世がやるしかないのではないか」
とおっしゃっていたのを見て、少し危険なことが起きてしまうのではないかと心配になったのがこういうことを考えるに至った経緯でもあります。
脱会二世の方たち自身が現役や脱会者の心のケアを担当することに私が危機感を抱いているのは、神さんも含めた二世の人たちは実はまだ精神的な面でも被害者の状態が続いている、ということが理由です。
これは脱会二世のメンタルが弱い、という話ではなく、ケアを受ける側とケアする側の感情や立ち位置があまりに近いため、冷静さを保てなくなる恐れがあると言うことです。ケアをする中で、本来ケアする側の脱会二世の方が逆にフラッシュバックに苦しめられたり、過大な苦しみを受けた結果、それがケアされる側、彼らとの関係性にも悪影響を与える可能性を懸念しています。
これは精神分析では逆転移という現象で、治療のために必要なプロセスではあるのですが、治療する側が安定した状態にない逆転移は治療行為自体を破綻させる可能性を高くします。
なのでやはり心のケアにも専門家を頼った方がいいと思っているということです。

私の方で統一教会の歴史を調べた感じとして、最初期の西川勝さんが伝道していた時と、彼が日本から追い出されて代わりに文鮮明が直接伝道活動を取り仕切るようになった時期からでは、教団の運営方針が大きく変わっていると思いました。(スレッドでシロさんという方も、そのことを指摘しておられたと思います。)
当然その時期、教義の教え方などにも手が加えられたはずで、文はアメリカからスタッフを呼んだりしているため、もともと統一教会自体が70年代頃にアメリカに進出した時に、向こうで洗脳のノウハウを手に入れてそれを日本に逆輸入した可能性があると私は見ています。
時期がライフダイナミクスなどの自己啓発セミナーの手法が開発され、最新のテクニックとして拡散されていく期間に一致しているのも私がそう考える理由の一つです。
そう考えるとカルトの側はいわゆる洗脳のための効率的・合理的システムを構築しているので、対抗するには個人の経験則や思い付きでやるのではなく、脱洗脳のための構築されたシステムがやはり必要だろうということです。
私には自己啓発セミナーに嵌って抜け出せなくなっていた知人がいましたが、どれだけ話しても考えを改めさせるのは無理だ、というのが結論です。無理どころかこっちが入会させられる危険がありました。
もし脱会した被害者の二世さんたちがケアをするとなると、その場合も同じような危険性が付きまとうと思います。

こういうカルトの洗脳に対抗するシステムの話をすると、いわゆる「脱会屋」と言われる90年代から2000年代初頭に多数存在した、(最近でも訴訟があったことがニュースになっている)信者を閉じ込めたりして無理やり脱会に同意させるやり方をどうしても想像しがちですが、あれこそ経験則だけから導かれたために暴走した悪い例だと思います。
キリスト教会のような既存の宗教組団体が脱会を請け負ったりしているケースもありますが、すでに90年代の段階で、脱会をさせようとする家族の側でも、あそこの教会のやり方は問題がありそうだ、雰囲気が合わない、などと感じることも多々あったようで、息子を脱会させるために複数の教会をはしごしたというような話も聞きます。

カウンセラーについてもピンからキリまであり、一概に誰でもいいとは言えません。ベースにしている学問の体系がいくつもあり、派閥によってカウンセリングのやり方も異なります。カルトの洗脳に対しては無効なものもあるでしょう。
私がおすすめする、というかカルトの洗脳に対しても有効ではないかと考えているのは、「行動主義心理学」に基づくカウンセリングです。
「(応用)行動分析」などとも言われます。
ただ、最近ではこれ単独というよりも、認知科学というジャンルと組み合わされて「認知行動科学」と呼ばれたりしています。

実は行動分析自体はかなり多くのカウンセラーから目の敵にされたりしていますが、その理由は「患者をモノ扱い、動物扱いしている」というものです。ただしこれは的外れな難癖で、もともと行動分析は人間の動物としての特性だけに注目して、その方向から人間の在り方を研究するという学問なので、結果的に当然そういうアプローチになるわけです。
と言うか、行動分析は元来、動物の行動を実験する学問でした。スキナーという先生はいつでも実験できるように白衣のポケットにネズミを入れていたことで有名です。それを人間の治療に応用したので「応用」行動分析と呼ばれるわけです。

統一教会の信者は言葉で教えを植え付けられており、その教義を利用する形で自分の信仰を守り、逆に相手を論駁してねじ伏せようとしてきますが、行動分析はそういった言葉でのやりとりを問題にしないところに特徴があります。
そのため重度の自閉症児童や、全身拘束が必要な精神病者など、通常の精神療法やカウンセリングでは対処できない患者相手の治療に用いられており、そこで結果も出しています。
それゆえ、脱会した後も尾を引くようなカルトの洗脳に対する治療にもこの手法が使えるのではないか、と考えている次第です。

この行動分析の日本での第一人者は奥田健次さんという方です。ただ前述のような理由から毀誉褒貶が激しく、そうしたことから一匹狼的な個人診療という形をとるため治療行為に対する報酬が高額だったりするという噂も聞いたりしました。また人柄についても私はそこまで詳しく知っているわけではありませんので、人によっては合う合わないはあると思います。

ただ、その治療の実践性は素晴らしく、「えっ」と目を疑うような常識破りな方法で症状を改善していってしまいます。
たとえばこれはごく一例ですが、おねしょがどうしても直せない子に対して行った治療が「寝る前に水を飲ませる」というものです。普通逆だろうと思いますが、これにはきちんと理由があり、水を飲ませられたことにより、おしっこが出るのではと本人が疑うので、夜中に尿意を感じることをあらかじめ自覚しやすくするのが一つと、もしおねしょをしてしまったとしても、それはカウンセラーの先生の指示に従った為なので子供の側が罪悪感を抱きにくく、「自分はまた失敗した」と自信を喪失しないで済み、前向きにチャレンジを続けることができる、というのがもう一点の理由です。

この先生の治療の実際の光景は過去に情熱大陸というTV番組でも取り上げられて放送されたことがあり、数年前まではネットでも見られたのですが、削除されてしまったのか今では探しても出てきません。その番組内では、どうしてもお肉を食べることができない女の子に、お肉が食べられるようになるための治療を施していました。先生はその子と二人でラーメンをすすりながらベッドの上で飛び跳ねたりしていたのですが・・・すみません治療内容の詳細は忘れてしまいましたw
ただ、みるみるその子の行動が変わって食べられるようになっていったのは覚えています。

奥田先生については、放送大学の認知行動療法('20)という科目の第2回の講義にゲストで本人が出演されています。
ケーブルテレビなどに加入されている場合は無料でご覧になれる可能性があるので、もし今年のカリキュラムに入っていれば実際の治療の説明も含めそこで見ることができると思います。
内容の一部を説明しているブログがあったので紹介しておきます。
http://ryoiku.mamagoto.com/発達障害のテレビの感想/okudahosodaigaku

ここにも書かれているように、行動分析の治療は昔の精神分析のように延々と治療に通い続けるのではなく、短期間で終わらせるか、やり方を周りや本人が教えてもらって自分で続けるというスタイルなので、費用や時間も節約できると言うメリットもあります。

こういう手法を使うことで脱会した後でも未だにカルトの洗脳の後遺症に苦しめられている二世さんたちのケアが可能なのではないかと思っています。
後は、実行するためには、行政などと相談して、こうした手法を専門にやっておられる奥田先生のような方をアドバイザーにして、宗教二世の心の問題を解消するケアのためのカリキュラム作りを行ってもらえるように訴えるということになるかと思います。結局ここが一番大変で二世の方たちに労力を必要とさせてしまう提案なのが心苦しいのですが…

以上、外部の一般市民はこういう専門家の存在を伝えたり、紹介することで統一教会被害者の心のケアをサポートするのがよいのではないかと考えている次第です。

【補遺】
追加で本文の方ではうまく言えなかったことを。
要は、脱会二世も一般市民も、トラウマケアのような専門分野のことはがむしゃらに自分たちでなんとかしようとして精神や労力をすり減らすよりは、専門家の手を借りる方向に時間や手間などのコストをかけた方がよいのではないか、と私の方では思っているということです。

ただ、twitterの方で二世さんからも指摘されたように、カルトからの脱洗脳のようなことを扱える心理士の数は少ないようです。社会のニーズから言っても、それを専門にしているカウンセラーの数が自動的に増えるとは思えないので、現在いる普通の心理士などに対して、教団の特徴や内部で共通で起こっていたことを説明する役割を脱会二世の方たちには担っていただくといいかもしれない、とも思っています。

では一般人は脱会二世さんたちのケアについて直接は何もできないのかというと、そうではなく、できることがあるとも思います。
そのことについてはこちらで続きます

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?