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桜回線  毎週ショートショートnote

桜回線  【410字】

「大盛況です!」
古いドアを軋ませて入ってきた大男にそう声がかけられた。
男は顎の下をプルプル震わせて頷き、一直線にソファに向かった。
「人手が足りません。手伝ってください」
それを聞いても男は微動だにしない。どっしり山の如く。それが男の信条。

男はお茶を口にすると渋い顔をして、茶碗でテーブルを殴りつけた。今月からお茶の品質を下げたのをすっかり忘れていた。
「ま、不味すぎる」

男はデスクを回り、モニタを睨みつけてニタリと笑った。
「大当たりでしたね。手が白くなる食器用洗剤がこんなにウケるとは思いませんでした」
「なーに、あの担当が良かったんだ。あの・・・」男はMCをしてくれた女性の名前を思い出そうとしたが、吉永小百合という名前しか出てこない。
「社長、回線が足りませんパンク状態です。20回線あるはずなんですが」
「いや、5回線だ」
「TVでも20回線って言ってましたけど」
「あとの15はダミー、空契約ってやつだ」
「へ?ああ、桜回線」


たらはかにさま
よろしくお願いいたします。


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