振り返っても  シロクマ文芸部

振り返ると白い雪が舞っていた。自分がその中を歩いている時は気づかなかった。
彼の姿は白い画面にもうすっかり溶けてしまっている。

部屋の中は音一つしない。苦しげな自分の吐く息が部屋の温度をいっそう下げている。
編んでいたセーターをほどいた。毎日空いた時間に少しずつ編んできたセーター。網目の一つひとつを思い出せるなんて、誰にもわかりはしない。もうこのセーターは私にとって彼自身の匂いだった。

一緒に映画に行った。北野監督の暴力満載の映画。彼が格闘技好きだというのは知っていたから、「この映画に」って言われても、そんなに違和感はなかった。
ディナーのイタリアンレストラン。今思えば、喧嘩になるように仕組まれていたのよね。
映画の感想を訊いてきた彼が、「素直に思ったように言えばいいんだよ」って言うから、正直に「私は嫌い」って言った。それが気に入らないってどうなの?
「せっかく一緒に観たかったのに」なんて言って、矛盾満載じゃない。

真正面から別れてくれ、なんて言えない人。それはやさしさなんかじゃないってわかっていないのね。

もういい。なんだかがっかりしちゃった。
薬缶から溢れる湯気で温まった部屋は、昨日までよりなんだか心地いい。
もうこちらから連絡はしない。
さっきまでセーターだった蒸気をくぐった色とりどりの毛糸は、すっかり新しい顔をして丸まっている。
   字数確認忘れた。600字くらい。たぶん


小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。


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