見出し画像

叔母の愛歴 シロクマ文芸部御中

愛は犬のよだれのようなもの、と去年亡くなった叔母が言っていたのを思い出す。

叔母は生涯に3度の結婚をした。最初は親の勧めた結婚で、間もなく破綻した。
2度目は就職先の会社の上司だったと聞いている。叔母はこの結婚ではずいぶん苦しんだのではないかと思う。
およそ20年に亘る結婚期間中、夫に愛人がいなかった暇はなかった。何度となく入れ代わり立ち代わり変わっていく愛人を、叔母は一人残らず知っていた。知っていながらそれを許していた。
それは、自分が選んでもやはり失敗したと言われたくないという、くだらない意地があったのかもしれないと叔母は語ったことがある。

では何が2度目の結婚に終止符を打つ決め手になったのか。叔母はその愛人の涎を自宅に持ち帰る夫の涎を許せなくなったのだと言った。愛は犬の涎のようなもの。受け入れるならそれはとことん愛おしく、厭ならばそれは嫌悪以外の何物でもない。叔母は夫の愛人をも夫と共に受け入れていたのかもしれない。

その破綻からの7年は、最初の夫との日々だった。亡くなるまでの3年間はほとんど病床にあった叔母だったけれど、その頃が一番幸せそうに見えた。
亡くなる間際、叔母は「彼は私が選んだ夫なの」と顔を綻ばせた。その瞳の輝きが今も私の中に鮮明に残っている。
                           了


小牧部長さま
今回も参加させていただきます。
よろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?