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冬の病 シロクマ文芸部

冬の色情狂と呼ばれています。これは通称ですが、原因はわかっていません。寒くなって空気が乾燥してくると、異常に異性が恋しくなる。そういう病気です。
「治るんでしょうか」
さあ、そればっかりはわかりません。閉じ込めておけばそういうことは起こりませんが、そういう訳にもいかんでしょう。


落ちぶれではいるが、元々華族の家柄だった当代当主は問題が起きることを極端に恐れた。
妻からそんな診断結果を聞いて、黙って見過ごす訳にもいかず、一人娘を冬の間、施設に入所させることを決めた。
入所施設、担当者を面談の上、慎重に決めた。


頼子はどこともわからないところで目覚めた。
拘束されていた。
頭が痺れているようで、立ち上がると天井がくねくねと歪む。
何日かはベッドの上で過ごした。

数日後にタントウと名乗る男がやってきた。
臭う。それも異常に。
頼子は幼い頃から匂いに敏感で、臭いものを受け付けなかった。
 
それから数日もすると頼子は新しい環境に慣れた。
しかしどうしても慣れないことがある。
頼子は白い天井を眺めながら、明けても暮れてもひたすら考えていた。
 
今日も鍵束を鳴らしながら、下卑げびた臭いが近づいて来る。
この部屋に監禁されてどれくらいになるのか、もうわからなくなってしまった。
ジングルベルが頭の中で鳴っている。
かたくなだった心が、だんだんとほどけていき、計画していた訳ではないけれど、懐柔は上手くいった。
もうすぐあの臭いがドアを開ける。
ここに来た時に嵌められていた手錠を外させ、自由に動けるようになっても動かなかった。あの臭いが、本当に心を許したと納得するまでは我慢すると決めていた。

テーブルスプーンの柄を、鋭利に磨き上げた。

あの臭いは部屋に入ると、必ずドアの方を向いて鍵を閉める。その時、どうすれば自然に近づけるだろうかと考えた。
 
「頼んでたもの、持ってきてくれた?」
あの臭いは袋を掲げて見せた。
「ありがとう」あの臭いに向かって走った。
ガチャンとドアにぶつかる音がした。
冬の色があたり一面にゆっくりと広がっていった。
         837字

小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。

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