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映画『ミナリ』感想 異文化で描かれるアメリカ


 紛うことなき「アメリカ映画」だったと思います。映画『ミナリ』感想です。


 1980年代のアメリカ。韓国からの移民であるジェイコブ・イー(スティーヴン・ユアン)は、家族を連れてアーカンソー州の田舎の土地に移住してきた。ジェイコブは、その地に農場を拓き、韓国の野菜を育てようとする。新居はボロボロのトレーラーハウス、病院へは車で一時間という住環境に、妻のモニカ(ハン・イェリ)は、夫への不満を募らせる。最も心配だったのは、子どもたちの事、特に弟のデビッド(アラン・キム)が心臓の病を抱えていたためだった。そんなモニカの心配をよそに、姉のアン(ネイル・ケイト・チョー)とデビッドは、自然に囲まれた新生活を楽しんでいた。
 モニカは、母のスンジャ(ユン・ヨジョン)を呼び寄せて同居することを条件に、新居での生活を続ける事とした。初めて祖母と対面したデビッドは、傍若無人に思えるスンジャの振る舞いに馴染めずにいる。家族それぞれの想いを抱えたまま、イー一家の暮らしは続いていく…という物語。

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 アメリカ出身で韓国系移民2世の、リー・アイザック・チョン監督による映画作品。俳優のブラッド・ピットが設立した映画製作会社「PLAN B」と、今やその名が広く知れ渡った製作会社「A24」が共同製作した映画で、2021年のアカデミー賞本命と目されている話題作となっています。昨年の『パラサイト』に引き続き、と思われるかもしれませんが、きっちりとアメリカで創られた作品なんですね。

 オープニングで一家が引っ越すための車を走らせるシーンで、テーマ曲が流れるんですけど、このメインテーマが物凄く良い曲で、一気に引き込まれます。
 後部座席に乗るデビッド君が大あくびをするショットが、すごく印象的というか、自分の子ども時代とそっくりで、人種も国も違うのに、ノスタルジーをめちゃくちゃ感じましたね(そういえば、家族構成も僕の子どもの時と一緒)。

 韓国の移民一家を描いていて、作中も韓国語の会話がメインとなっています。けれども、描かれているのは新天地に赴き新しく農業を始める一家の姿で、その開拓精神というかフロンティアスピリットは、とてもアメリカ的とも言えると思います。
 それと、キリスト教文化というのもアメリカを象徴するものの一つとして使用されているようにも思えます。地元に馴染むために日曜の教会へ通う件とか、ポール(ウィル・パットン)は、わかりやすくイエス・キリストとして一家を導いているように描かれています。
 序盤で、ダウジングで水脈を探すのを否定したり、ポールが悪魔祓いをするのに苛ついたりしていたジェイコブが、徐々にアメリカ文化を受け入れていくという物語の見せ方になっているんだと思います(アメリカ文化やキリスト文化の中で、ダウジングがどういう位置付けなのか、今一つ理解出来ていないんですけど)。
 けれど、ただアメリカに染まっていく話ではなくて、しっかりと祖国の韓国文化という姿勢も忘れていないんですよね。それを、祖母のスンジャがキャラクターとして役割を果たしていると思います。

 この物語は、ジェイコブの農業成功の可否、ジェイコブとモニカの夫婦関係に加えて、スンジャとデビッドの、「オババ×孫」ものでもあるんですよね。
 孫の幼さゆえの我儘に、純朴なおばあちゃんが惜しみない愛情を注ぐというのが定番ですが、このスンジャというおばあさんは、クソババア感が過ぎるというか、何しろ人として振る舞いが下品過ぎて、デビッドから煙たがられるのも無理もないんですよね。
 ただ、惜しみない愛情という点はきちんと持ち合わせており、それが段々とクソババア感を上回っていく絶妙な演技をしていると思います。ユン・ヨジョンがアカデミー助演女優賞にノミネートされるのも納得の名演。

 デビッドの病も、ジェイコブのギャンブル的な農業ビジネスも、モニカの不安感による苛立ちも、イー一家はそれぞれが、家族をバラバラにする不安要素となっているように思えます。ただ、成功者としての父親を見せようとするジェイコブも、その気持ちを家族を守る事よりも優先させていると断ずるモニカも、全ては家族のためを想ってのことなんですね。不安要素であると同時に、家族を繋ぎ止めるものになっているんだと思います(そういう意味でいうと、長女のアンだけがエピソードが薄く感じられて残念な部分ではありました)。

 物語全体としては、家族が不幸になっていく出来事の方が、割合として多いはずなんですけど、その絆というものは、途切れそうになりつつも、しっかりと強くなっていくんですよね。その説得力の持たせ方、魅せ方が上手い作品だと思います。
 タイトルの「ミナリ」は、野菜のセリのことだそうです。「水さえあれば、どこでも育つ」というのを、移民家族の比喩にしているのは明らかでしたが、物語を動かすアイテムとしての役割もあることを、サラッとしたエピローグで描くのも、粋な感じで好きですね。

 アメリカは様々な人種と文化が寄り集まっている、コラージュのような国だと思います。韓国文化、キリスト教、開拓精神がミックスされていくような美しいアメリカ映画だと感じました。


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