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2022年上半期お気に入り音楽

 2022年上半期で良かった音楽作品紹介です。もっと早くに書きたかったのですが、忙しさにかまけて、フジロック後になってしまいました。まだまだ油断ならないコロナ禍ですが、洋楽アーティストの新譜も今年に入ってからかなりの数がリリースされ、来日公演も続々と決まっています。上半期は、ここでは紹介しきれていない作品でも秀作が多い印象でした。

 2021年の上期・下期はこちらから。↓

『BADモード』/宇多田ヒカル

 年初の突然のリリースに、音楽ファンが沸き立ち、「年間ベスト級」と絶賛の声も多かった本作。そのつもりはないかもしれませんが、売り方が巧みな印象も受けます。元々、リズムトラックのセンスが抜群なアーティストでしたが、本作でのリズムアプローチは格別。打ち込みも生ドラムも、素晴らしいセンス。活動再開後の物憂げな空気感はそのままに快感の音を出しています。けどSkrillexとのコラボ曲だけは「うるせー!」ってなりますね。


『Time Skiffs』/ Animal Collective

 スタジオアルバムは6年振りとなるアニコレの新作。コロナもあってリモートでの録音作業だったそうですが、何故か生ドラムがメインのバンドサウンドに回帰しているところが、この人たちらしいところですね。不思議な快感の空気で、きちんとポップなメロディを鳴らしているのは相変わらずですが、その中にアンビエント的なセッションタイムが設けられていて、ただのポップスからズラすこと、音で遊ぶことを忘れていない感じが嬉しくなりました。


『PAINLESS』/Nilüfer Yanya

 ロンドンの女性SSWによるアルバム。シングルをラジオ番組「アト6」で紹介されてから、気になってアルバムを期待していました。M①『the dealer』のハネたリズムトラックからして最高の快感を味わえます。基本、リズムにギターのコードストロークやアルペジオに歌を乗せているシンプルな構造の曲が多いと思いますが、ありきたりな印象が全く無いんですよね。コード感とメロディ部分なのか、ソウルフルな印象が強く、ギターロックのフォーマットなのに、R&Bのような雰囲気も感じさせます。


『Wet Leg』/Wet Leg

 2022年に突如現れ、全英1位をかっさらった女性2人組のデビューアルバム。90年代的なローファイギターポップが、何故こんなに新鮮に響くのか、好んで聴いている自分でもわかりませんが、とにかく気に入ってしまった作品。暴力的でありつつ、マヌケな感じが最高。ディスクユニオンで並んでいるCD全てが面白い音に感じられた時代を思い出させてくれました。


『Omnium Gatherum』/King Gizzard&The Lizard Wizard

 相変わらず精力的に作品発表を続けるキンギザですが、今作の節操の無さはハンパじゃないです。ロックバンド史上、最も情報量が溢れいる1作だと思います。M①『The Dripping  Tap』の18分にも及ぶスペースサイケハードロックでブッ飛ばされてしまうんですけど(NEU!をメタルバンドがアレンジしたような曲)、その後の曲群も凄まじい。オリエンタル民族風味、ジャズR&B、デスメタル、シティポップ、果てはヒップホップ(ゲストにラッパー参加とかでなく、ボーカルがラップしている)まで飛び出す始末。それらがシームレスに繋がっているので、アルバム作品として聴かせてしまう力業の奇作。


『Spell 31』/lbeyi

 サブスクのおすすめで知った、フランス、キューバ出身の双子姉妹によるソウルユニット。ビョーク、FKAツイッグスなんかの直系という感じの音ですね。ヒップホップ、R&Bを基盤にしつつ、神秘的・民族音楽的要素も強い。M⑥『Tears Are Our Medicine』のベースラインと歌のみの美しさが素晴らしい。


『Queendom』/Awich

 今年のフジロックに出演が決まった時に初めて名前を知った日本の女性ラッパー。波乱万丈のプロフィールに惹かれて聴いてみたのですが、やはりラッパーは生き様が最も重要視される表現なのかもしれません。トラックなどはスタンダードな今のヒップホップで特殊なことはしていないと思いますが、その人間力の強烈さ、力強いリリックの魅力に取り込まれました。フジのレッドマーキーのステージも、本当に感動的で、今年知ったアーティストなのに、数年来待ちわびていたライブのように感極まってしまいました。


『Life Is Yours』/Foals

 Foalsは以前から知っていたのですが、面白いアレンジ、演奏をするバンドとは思いつつも、ちょっとシリアスな雰囲気が苦手で、あまり聴き込んでいませんでした。そこにきて、今作での突き抜けたような明るさに心奪われてしまいました。こんなにも軽薄な80‘sポップスを、流行りとはいえ、臆面なく出来るバンドとは予想外。ただ、今まで真面目一辺倒だったからこそ、いきなりの明るさが許されていると考えることも出来ますね。高校・大学デビューして共感性羞恥を覚えさせない数少ない成功例を見た思いです。ボトムの太いリズムとペケペケなギターカッティングが気持ちいい。


『きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか』/HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS 

 アングラ音楽の大御所灰野敬二が、若手ミュージシャンと組んだバンドで、あらゆる名曲を解体アレンジしてカヴァーするというコンセプトの作品。ベースのなるけしんご君とドラムの片野利彦君が、個人的な友人というのもあって聴いたのですが、それを差し引いても素晴らしいアルバム。正直、灰野さんの作品ということで、一回聴いてノイズまみれに驚いて終わりかと思っておりましたが、結構何回も愛聴できる作品になっています。確かに原曲無視のアレンジでノイズまみれはそうなのですが、かろうじて有名曲の核部分が残っているところもあり、そこがポップに感じられるようになっています。灰野敬二作品でも最もポップなアルバムじゃないでしょうか。スタジオの空気感がそのままパッケージされた生々しい録音も素晴らしい。作られた劇映画ではなく、事実をそのまま捉えたドキュメンタリー映画のような音楽。


『物語のように』/坂本慎太郎

 もはや、坂本慎太郎というジャンルになりつつある、ソロ4作目。基本スタイルは変わりませんが、若干管楽器の割合が増えてきたぐらいですかね。幼年期の想い出のような抒情性と、ものすごく変態な性癖を曝け出しているようなエロスが、矛盾することなく並んでいる素晴らしい芸術作品。M①「それは違法でした」の歌詞は現代に対する痛烈な諷刺となって、心に刺さってきます。日本語での政治主張・思想表明をするなら、こういう直接的でない表現方法の方が適しているのかもしれません。


『Mr. Morale & The Big Steppers』/Kendrick Lamar

 現代ヒップホップで世界最高の地位を手に入れたケンドリック・ラマー待望の新作。今作もマジで大傑作なので驚きました。これまでで、一番好きかもしれません。2枚組という大仰な作りの割には、特にアンセム的な曲もなく、地味に感じる人もいたかもしれませんが、自分にはかなり刺さる音でした。英語がわからないので、リリックの内容まで読み込めてないから、この作品の魅力を半分も理解していないかもしれませんが。特に鍵盤やストリングスによるコード感が今までで一番強く印象的で、歌心みたいなものが最も感じられるアルバムだと思います。静かな語りから力強くなる終盤の曲のカタルシスが素晴らしい。


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