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また綺麗で新しい悲しみをまとって

「まばたきも出来ないほど 見惚れていたよ君に もう僕らの深いブルーさえ 見えなくなるほど」

この歌詞がとても気にいっているわたしは、今日の午後のように、このEPを折りあるごとに聴きかえす。上着なしで玄関をでたときにはなにか賭け事をしているような気分だったけれど、外はあまりにも陽気に溢れていて、気がついたら上着のことすら忘れていた。

ろくすっぽ確認もせず新宿へでたら、観たい映画まではまだ2時間くらいあって、明治通りをどこまでも下っていくことに決めた。折り返したいときに折り返せばいいし、バスや電車があるから行きすぎてしまってもなんとかなる、はず。

ずいぶんと歩いたところ、右手に大きな公園があって、吸いこまれるように右折する。木漏れ日の中をあるいている時にちょうど「僕らの深いブルー」が耳元で歌われて、例にももれずわたしは微笑んだ。

それから、かまぼこみたいな建物が突如出現して、のぞき込めば大きなガラスの向こうに赤と黄色のコースロープがたゆたっているのがみえる。整然と並んでいる自転車を飛びこして塩素を連れてくる風。おもいかえすと、最後に水泳帽をかぶったのは高校生のときかもしれない。

耳元から、このEPもう一つのお気にいり部分、とびっきりのCメロが聴こえてくる。

「何も失ってなんかないね また綺麗で新しい悲しみをまとって」

何も失ってなんかないね。また綺麗で新しい悲しみをまとって。

なんとなく、わたしはわたしにとっての美しい言葉をたくさん書いていこう、とつよく思う。

ポケットからアイフォンをとりだすと、映画の時間まではまだあと1時間もあった。

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