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アンソロジー小説集『蒼の悲劇』(CAL第一回配本)発売中



【内容紹介】


「悲劇」をテーマにした新世代の文学の担い手九名によるアンソロジー小説集。愛する者との永遠の別れ、迫りくる罪の足音、抗いがたい自殺の誘惑、悲嘆のさなかに射し込む一条の光……。古典ギリシア劇以来、失われつつある「悲劇的な力」を復活させ、衰弱した現代文学を賦活する先鋭的な九作品を収録。

【書籍情報】

  • 出版社 ‏ : ‎ デザインエッグ社; 第1版 (2022/8/1)

  • 発売日 ‏ : ‎ 2022/8/1

  • 言語 ‏ : ‎ 日本語

  • オンデマンド (ペーパーバック) ‏ : ‎ 506ページ

  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4815034184

  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4815034184

  • 寸法 ‏ : ‎ 12.8 x 2.9 x 18.2 cm

【目次】


・刹那の死神              秋杏樹 10
・白いゆめ               天野汐莉 40  
・優しい生き物             三毎海 65
・私たちはさよならと言った       武内一馬 88
・今更                 徳嶺瑠花 138
・すら                 雛菊リネ 185
・星をさがして             雪菜冷 224
・水龍乙女綺譚             森辺つゆこ 307
・常春藤                鈴村智久 369

・「各作品解説」  435
・太宰治から秋杏樹へ──「情死の美学」と反出生主義の現在
(秋杏樹「刹那の死神」解説)  437
・ニンファの見たゆめ──雨の日に微笑む美しい殺人者
(天野汐莉「白いゆめ」解説)  453
・メタモルフォーゼにおける肯定的なもの──人間社会からの逃走  
(三毎海「優しい生き物」解説)  458
・「自由」への二つの経路 (武内一馬「私たちはさよならと言った」解説)  464
・明日世界が終わるとしたら──過去の携帯電話から届くラブレター 
(徳嶺瑠花「今更」解説)  472
・夏への扉は少しだけ開いている (雛菊リネ「すら」解説)  479
・明かしえぬ約束──現代のカストルとポルックスの絆 
(雪菜冷「星をさがして」解説)  487
・二人の少女が開く新しい物語の扉へ (森辺つゆこ「水龍乙女綺譚」解説)  497

・あとがき  501

【執筆者一覧】


・鈴村智久[編著]
1986年生まれ。大阪府出身。一般企業勤務。Twitter/@sempreinparo01
・秋杏樹
2003年生まれ。青森県出身。筑波大学在学。Twitter/@bunngaku_aaj
・天野汐莉
2004年生まれ。京都府出身。高校三年。Twitter/@yoruni_oboreru
・三毎海
2000年生まれ。青森県出身。Twitter/@I5l4l5I
・武内一馬
大阪府出身。ライター、古書店「一馬書房」店主。Twitter/@kazumawords
・徳嶺瑠花
2000年生まれ。北海道出身。モデル、声優。Twitter/@ru_MAST_yellow8
・雛菊リネ
1999年生まれ。長野県出身。学校教員。Twitter/@Rene140ss
・雪菜冷
1984年生まれ。兵庫県出身。Twitter/@setsuna_rei_
・森辺つゆこ
2001年生まれ。和歌山県出身。Twitter/@fqg_lose_name

【本書「あとがき」より】


 本書は鈴村智久が企画・編集・総解説を務める「クラシック・アンソロジー叢書」の第一冊である。第一冊目となる『蒼の悲劇』のテーマは現代における「悲劇的なもの」(悲愴)であり、九名による中短編小説が収録されている。企画段階の募集欄において、「孤独、失意、絶望、挫折、悲哀、苦悩、飢餓など、一連の悲愴な状態、展開、心境などを主題にした悲劇的な小説。あるいは、これらのテーマにゆるく準じる小説」としたように、各作品には共通して悲劇的状況下に置かれる人間の姿が描き出されている。

 現在のメンバーが揃ったのが二〇二一年十一月下旬であり、それから約半年間を執筆期間とした。六月頃から順次集まった作品の編集作業に入り、完成後にカバーデザインを以前からお世話になっているデザイナーのTomoko Izutsuさんに依頼した。デザインのコンセプトはあらかじめメンバーから意見を伺い、彼女たちの多くが青系統の寒色(夜の雨、ダークブルーなど)をイメージしていたので、今回のデザインに反映させた。最終的に、カバーデザインと完成した文章データをデザインエッグ社に送ったのが七月十日である。

 こうして完成した九つの小説をあらためて見渡すと、ある感慨を懐かずにはおれない。この本はアンソロジーであると同時に、誕生したばかりの文学的な共同体による最初の共同作業である。ただ一人の小説家の声があるのではない。ここには複数的な声の重なり合いがある。声は交響的であり、悲劇という同じ楽曲を選択しながらも楽器を使うテクニックは演奏者によって多種多様である。互いに異質で、それ自体で独立していながらも、ひとつのコンセンサスによって各作品が連動し合い、一冊の書物にまで発展していく。

 筆者にとって最も幸福な想い出は、一人一人のメンバーの作品を読んでいる時間だった。本書には収録されていないが、作品をめぐる細やかなコミュニケーションも含めて、彼女たちの文学への深い思い入れを強く実感することができた。筆者はそうした文学的交流を通して豊かな刺激を与えられ、この企画に対する新たな自信を与えられた。

 これまでも幾度か述べてきたことだが、一冊の小説を世に出す行為は、手紙を瓶に入れて海に流す投壜通信に似ている。読者から期待通りのリアクションがすぐに返ってくるわけではない。真に普遍的価値を有する作品ほど、その評価には長く熟成された時間がかかるものである。

 今、九名がそれぞれ情熱を注いだ一冊の小説集がこうして大海へと旅立とうとしている。我々がこの一冊に費やしたかけがえのない時間は、もう二度と戻ってこない。この企画、このメンバー、この小説で一冊の本を出すことは、この世界にただ一回限りしか起きない特別な出来事である。筆者は彼女たちの作品に、彼女たちが作品に宿した途方もない熱量に匹敵するほどの愛を返すことができただろうか。

 もしもいまだ見ぬ誰かが筆者のその問いに、「この本がその答えになっている」と返してくれるならば、本企画の責任者としてこれ以上ない喜びである。


             二〇二二年七月十日 鈴村智久


【『蒼の悲劇』とは?】


猛暑が続く8/1──ついにAmazon上で私を含む九名のメンバーによる初のアンソロジー小説集『蒼の悲劇』が発売されました。
発売前後のメンバーの『蒼の悲劇』紹介ツイートはtogetterでまとめられております。
九名いるだけに、とても賑やかで楽しげな様子が垣間見えると思います。

Amazonから青のギフト包装で届きました。
開ける瞬間はいつも緊張します。

メッセージカードにはこんな文面が。

九名が精魂を注いで書き上げた小説を収録した作品集が、ついに私の手元にも届きました。内容紹介は▶︎Amazon販売画面にてチェックすることができます。
カバーはプロのデザイナーの方に、真夏の暑さを吹き飛ばすようなデザインに仕上げていただきました。

『蒼の悲劇』は読みやすく上質なB6サイズのペーパーバック製本でありながら、505ページのボリュームがある充実した内容となっております。
ややお値段は高いですが、買ってけして損はしないラインナップと質の高さであることを編者の私が保証いたします。
以下、収録されている小説家とその作品になります(右の数字はページ数)。

【寄稿作「常春藤」について】

私は悲劇作家エウリピデスの最後の作品として名高い「バッカイ」(バッコスの信女)にインスピレーションを得た中篇小説を寄稿しました。
ギリシア神話ではディオニュソスとして知られるこの酒と舞踏の神は、若き日のニーチェが『悲劇の誕生』において調和と秩序を司るアポロンとの対比において前景化させたことでも知られております。
「バッカイ」は初読時に衝撃を受け、「オイディプス王」や「エレクトラ」と並んで私にとって非常に重要な作品となりました。
マルティン・ヘンゲルというドイツの新約聖書学者によれば、パウロが活躍した時代に最も人気の高かったギリシア悲劇は「バッカイ」であったそうで、パウロはその作品の持つ野蛮さといかがわしさに嫌悪感を抱いたとさえ伝えられております。
使徒パウロの感情をこれほど揺さぶったというだけでも、老齢に達したエウリピデスが生んだこの悲劇がいかにショッキングな内容であったのか如実に物語っていると思います。


私が寄稿した「常春藤[きづた]」という小説のタイトルは、ディオニュソスが髪に乗せている代表的な植物です。
この作品でチャレンジしたかったのは、美しい青年の姿でありながらも恐ろしさと謎に満ちたこのディオニュソスという神を、私なりに満足のいく形式で物語化するということでした。
結果的に、エウリピデスの悲劇の筋からは大きく逸脱し、脚色や翻案ともまったく異なるオリジナルの小説に生まれ変わりましたが、それでも核にあるのは「バッカイ」を読んだ時に感じたディオニュソスへの底知れない畏怖の感覚です。
ディオニュソスが持つそういう不穏な魅力が、この小説を通してすこしでも読者様に伝わればと願っております。

「常春藤」を執筆する上で参照した本の一部です。
もっとも、執筆中は資料のことなど忘れてしまい、物語の世界に没頭している場合が多いです。


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