#023 『彼女はそれを受け取ると、またひとつ宝物を胸にしまい込んだ』|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel
1977年に出版された短編集The Collector of Treasures(『宝を集めるひと』)の表題作。この作品はいちばん衝撃的だが、とても深く美しく非常に印象的な作品だ。ベッシー・ヘッドを知りたいというひとには、この短編小説をお勧めしたいくらい。短いのでいずれわたしが訳しておきたい。
物語は当時のボツワナの農村。両親を亡くし、虐げられて育った主人公ディケレディだったが、育てられた叔父の家から逃げ出すために、叔父が進めたひどい男と不遇な結婚をする。
夫は、金遣いも荒く家を空けて女と遊んでばかりの典型的で暴力的なダメ男。どんなに苦しくても、心が美しいディケレディは得意の裁縫を仕事にしながら三人の子どもを育てている。
そんな中、隣に越してきた家族と非常に親しい関係になり、温かな交流を続けている。
隣家の妻ケナレペは本当にディケレディの不遇を悲しみ、いつも彼女の味方になってくれる。ケナレペの夫ポール・セボロも、優しく愛にあふれたすばらしい男だった。
この夫婦と助けあって暮らしてきたディケレディは、ケナレペが流産をしてしまい病院に入院しているあいだセボロ家の子どもの世話をしている。
このシーンは、夜遅くディケレディがセボロ家の子どもたちの食事の後片付けをしているところに、ポール・セボロがケナレペの見舞いから帰ってきたところ。
ポールと主人公ディケレディの間に、愛はあるのだと思う。
でもそれは、もちろん不倫とかそういうものではなく、純粋な愛。ディケレディはこの夫婦と愛し合っているのだ。ひどい夫との一方的なセックスしか知らないディケレディに、夫を貸してあげても良いとケナレペが本気で言うくらい。(ちなみに、ディケレディもポールもこれは笑い飛ばしたが)
もっと印象的なシーンがあるのだけれど、わたしが全部訳すまでお待ちを!!言いたい!!
このシーンも、ディケレディはポールの愛情がこもった視線にドキッとする。そして、その愛情を宝物として胸に秘めて家へ帰っていくのだ。
これが、「宝を集めるひと」である。
この作品は、作家ベッシー・ヘッドがボツワナに亡命してから10年以上が過ぎてから書かれたものであり、初期の作品と比較すると作家の力量と深さが恐ろしく変わっていることがわかる。しかしながら、初期の作品もあまりにも完成度が高く、そちらのファンも多い。
どちらも比較できるようになるとベストだな。がんばって様々なベッシー・ヘッド作品の日本語訳を出版できるようにしたい。
ちなみに、今でも新しい国の言語に訳されて出版されているんですよ。すごい作家ですね。
作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照
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