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#007 醜い老婆のような考え方がこの大陸を崩壊させた|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

What  a loathsome woman, he thought, and yet how naive she was in her evil. He had known many such evils in his lifetime. He thought they were created by poverty and oppression, some way, a protest would help to set the world right. It was the mentality of the old hag that ruined a whole continent - some sort of clinging, ancestral, tribal belief that a man was nothing more than a grovelling sex organ, that there was no such things as privacy of soul and body, and that no ordinary man would hesitate to jump on a mere child.
(When Rain Clouds Gather, 1968『雨雲のあつまるとき』)
なんと胸の悪くなるような女(注:老女のこと)なのだろう。彼は思った。そしてまた、何と純真な邪悪さなのだろう。マカヤはこれまで生きてきた間ずっと、そんな邪悪さを多く目にしてきた。それは貧困と抑圧の中で生み出されるものだと思っていたし、過去二年間を過ごした刑務所の中で、抵抗こそがいつか世界を正す助けになるだろうという信念のもとで生きていた。醜い老婆のような考え方がこの大陸を崩壊させたのだ。─男は卑俗な性器であるに過ぎず、精神と肉体のプライバシーなど存在せず、どんな普通の男もほんの子どもに飛びつくことを躊躇しないというような、しつこくまといつく先祖伝来の部族的な信念。

作家ベッシー・ヘッドによる自伝的小説の三部作といわれている作品のうち、最初に出版された作品When Rain Clouds Gatherより。

今回は、キツめな表現のある文章を抜いてみた。
南アフリカでジャーナリストだった青年マカヤは、政治犯として刑務所に入れられ、その後、自由を求めて国境フェンスを乗り越えてボツワナに行く。暗闇の中で見つけた最初の灯りは、強欲な老婆と10歳くらいの少女の2人が暮らすハットであった。夜の闇の中で行くあてのないマカヤは、老婆の所有する余ったハットに泊めてもらうことにする。
深夜、マカヤのハットに音もなく忍び込む少女。老婆によって、彼女は売春をさせられているのだ。そのことを知り、驚愕し自尊心を傷つけられるマカヤ。子どもにそのまま金をやり厳しく追い払った後、彼の頭の中に浮かぶ言葉が、この引用部分。

部族主義への反発、伝統的な男尊女卑の価値観。そういったものに強い反発を覚えていきてきたマカヤの人生は苦しいものだった。この物語には、そういうマカヤの「変わった」考え方が頻出する。男女の役割や男尊女卑への疑問、伝統的な部族主義の弊害、そして邪悪さと差別。

これを物語という形にして1960年代に発表した作家ベッシー・ヘッドはまだ30歳にならないころだった。無駄のない文章の美しさと強さから、この作家の驚くべき鋭さと才能をうかがい知ることができる。一言ひとことが、実に濃い意味を持っているのだ。

というわけで、綺麗で強いだけでなく、きつい部分も紹介していきたい。

しかし、翻訳というのは非常に難しい。この引用文も、違った解釈があるだろう。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照。

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