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#005 有刺鉄線を握りしめ、体を持ち上げ乗り越えた。そして彼はボツワナにいた。|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

The sun set early in winter and by seven o’clock it was pitch dark. Makhaya  made ready to cross the patch of no-man’s land. The two border fences were seven-foot-high barriers of close, tautly drawn barbed wire. He waited in the hut until he heard the patrol van pass. Then he removed his heavy overcoat and stuffed it into a large leather bag. He stepped out of the hut and pitched the leather bag over the fence, grasped hold of the barbed wire, and heaved himself up and over. Picking up his bag, he ran as fast as he could across the patch of ground to the other fence, where he repeated the performance. Then he was in Botswana.
In his anxiety to get as far away from the border as fast as possible, he hardly felt the intense, penetrating cold of the frosty night. For almost half an hour he sped, blind hand deaf and numbed to anything but this major fear.
冬のあいだ太陽は早く沈み、七時にはもう真っ暗であった。マカヤは、国境の中間地帯を越える覚悟を決めた。国境のふたつのフェンスは、高さが七フィートもあり隙間なくぴんと張られた有刺鉄線で作られていた。パトロールのヴァンが通り過ぎる音を聞くまで、ハットの中で待った。それからずっしりしたオーバーコートを脱いで大きな革のかばんに詰め込んだ。ハットから出て、革のかばんをフェンスの向こう側に投げる。有刺鉄線を握り締め、身体を持ち上げ乗り越えた。
かばんを拾うと反対側にあるフェンスまで全力で駆け抜け、同じ動作を繰り返した。そして彼は、ボツワナにいた。
できるだけ早く、可能な限り国境から離れたいという焦りの中で、マカヤは凍てつく夜の鋭く突き刺すような寒ささえも感じなかった。三十分近く全力で走り続けていた。巨大な恐怖を感じる以外は、まるで何も見えず耳も聞こえずに麻痺しているようだった。

When Rain Clouds Gather (1968)

1968年、作家ベッシー・ヘッドがボツワナに亡命してから約4年後に出版された最初の長編小説の第1章。主人公マカヤがアパルトヘイトの南アフリカを逃れてボツワナへと亡命する。まさに、国境の警備の隙をつき、夜の闇に紛れて国境フェンスを乗り越えて命懸けで逃れてくるシーンである。
当然、ベッシー・ヘッドの本人もまた、南アフリカからアパルトヘイトを逃れて亡命した一人。もちろんフェンスを乗り越えて亡命したわけではなく、彼女の場合は「出国許可証」(パスポートではない。二度と帰国が許されないもの)のみを手に2歳にもならない息子を連れてやってきた。
この小説「When Rain Clouds Gather」のスリリングなシーンに込めた想いはどんなものだったろうか。


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