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『花降る空に不滅の歌を』レジーさんによるライナーノーツ。

リリースから10日経ちました、ツアーも始まり、今日はレジーさんによるライナーノーツを掲載します。今作、ライナーノーツお願いするなら、柴さんとレジーさんにお願いしたいなと思って、お願いしました。ぜひご拝読くださいませ。
皆様素敵な週末を。(千葉LOOKにお越しいただいた皆様、どうもありがとうございます。明日は佐々木さんソロの東洋館です!)


「ロックは死んだ」。ポップミュージックに多少なりとも関心のある人であれば、何らかの形で一度は聞いたことのあるフレーズだろう。

日本の音楽シーンにおけるここ数年の動きを見ると、この言葉はより生々しく響く。衝動を抱えた若者が最初に手にする「楽器」としてパソコンやスマートフォンが選ばれるようになった。多様な国籍のダンス&ボーカルグループがチャートの常連として確実に定着した。バンドフォーマットの音楽はやさしさや愛をマイルドに表現するようになった。

一方で、より直近の流れにフォーカスを絞ると、また違った動きを確認できるのも事実である。ライブハウスやフェスの活況が徐々に戻ってきた。バンドを組むことの楽しさを描いたアニメがそこで鳴らされる音楽も含めて大きな話題を呼んだ。年末年始に大ヒットした漫画原作の映画においてベテランロックバンドの鋭角なサウンドが効果的に導入された。

死んだと思ったら実は生きている。生きていると思ったらいつの間にか死んでいる。我々音楽ファンは、「ロック」という曖昧な概念にいつも翻弄されながらリスナー人生を送っている。だからこそ、「ロックの定義は?」「ロックを取り巻く時代の流れは?」なんて問いを蹴散らしながら愚直にバンドで大きな音を出そうとする面々を信じたくなる。そんな存在がいる限り、世間的にはどうであろうが聴き手ひとり一人の心の中にロックバンドのかっこよさが育まれていく。

<俺の夢を叶えるやつは俺しかいない 俺は行く いつもの道を ROCK’N'ROLL>

a flood of circle(以下フラッド)のニューアルバム『花降る空に不滅の歌を』の幕開けを飾るのは、佐々木亮介のこんなシャウトである。先行きの読めない今の音楽シーン、そして今の社会において、ロックバンドとしてこのうえないメッセージから始まる今作。このアルバムで彼らが体現しているのは、自分たちはこれしかできないという開き直りと、それを今の時代に成立させるための工夫である。あえての自嘲も織り交ぜながら、それでもバンドとしての生き様を全うしようとするフラッドの姿は、多くのリスナーの胸を打つのではないか。

前述した強烈な宣言で始まる「月夜の道を俺が行く」からドライブ感全開の「バードヘッドブルース」に続く冒頭の展開に象徴されている通り、今作で聴けるのは4人が鳴らすガツンとしたバンドサウンドである。そのトーンを基調にしながら、パンク的な構成の「花降る空に不滅の歌を」やリリカルな雰囲気を漂わせる「くだばれマイダーリン」「GOOD LUCK MY FRIEND」など、バンドとしての幅を見せる楽曲が随所に配されることで作品としてのダイナミズムが構築されている。

特に印象的だったのは、ギターポップを思わせる「カメラソング」。爽やかなアレンジと美しいメロディにブルージーなボーカルが混ざり合う絶妙な組み合わせは、フラッド以外になかなか生み出せないマリアージュだろう。<ハイチーズ笑ってほしいよダーリン>のラインにおける言葉とメロディの融合度合いは、日本のポップミュージックで常に議論されてきた「西洋のメロディにどうやって日本語を乗せるか」という問いへの1つの回答となり得る完成度となっている。

ロックバンドというフォーマットはある意味では音楽を作るうえでの制約であり、必然的に出せる音のレンジは限定される。その中でいかに楽曲のあり方を更新できるかにバンドの腕が問われるわけだが、『花降る空に不滅の歌を』におけるフラッドは言葉のフロウをさらに進化させることでこのテーマに立ち向かっている。メロディとのマッチングを高度に実現させた「カメラソング」のみならず、「バードヘッドブルース」における3連符の譜割り、過去作でもチャレンジが見られたラップ的な歌唱がさらにナチュラルになった「如何様師のバラード」、フォークソングのスタイルを援用した「本気で生きているのなら」など、インパクトを持って歌詞を伝達するための様々なアプローチは今作の聴きどころの一つだろう。そしてこういったトライが単なるギミックにならずに楽曲の強度へとつながるのは、バンドとしてのコアがしっかりと固まっていることの証左だと言える。

今作のラストにたどり着くのは、大団円感のあるポジティブな「花火を見に行こう」。自分たちの武器を再確認しながら、一方でバンドマンの葛藤と向き合い、その中でどう生きるかを模索した果てに歌われる<いつか僕らは必ず見上げるだろう 未来の夜空に輝く 願いが叶う日の花火 さあ 花火を見に行こうぜ>という言葉が放つロマンチックなムードは、今のフラッドにしか出せないものである。

「ロックは死んだ」。ポップミュージックに多少なりとも関心のある人であれば、何らかの形で一度は聞いたことのあるフレーズだろう。その言葉が形になって迫ってくる瞬間も増えてきたこの時代だからこそ、『花降る空に不滅の歌を』がまとったロックバンドとしてのオーラはより輝く。ここにあるのは、決して死ぬことのないロックンロールの未来である。

TEXT BY レジー


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