【ピリカ文庫 (2022)】 ジョンとヨーコのI love you
彼は皆からジョンと呼ばれている。本当の名前を尋ねてみたことはない。私もヨーコと名乗ってはいるけれど、本名は誰にも言ったことがない。世の中にはそういうことがあるものだ。
デパートの立体駐車場で、ジョンと落ち合う。一階はいつも満車だし、店内直結通路のある五階も車が多い。三階あたりがちょうどいい。シルバーのボディが入道雲を映しながら走る。国産のセダンはおしゃれではないけれど、安心できる。
「美術館。フェルメールが何枚か来ているようよ」
「絵は好き?」
「あんまり」
「俺も」