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Favorite〜2022◌⑅⃝*॰ॱ

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私のお気に入り。面白いな、胸に響くな、好きだなと思った記事。 基準は、まったくない。 このマガジンに入っていないけど大好きな記事もたくさんある。ここに居るのは、その時の気分と直感…
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#小説

【ピリカ文庫 (2022)】 ジョンとヨーコのI love you 

 彼は皆からジョンと呼ばれている。本当の名前を尋ねてみたことはない。私もヨーコと名乗ってはいるけれど、本名は誰にも言ったことがない。世の中にはそういうことがあるものだ。  デパートの立体駐車場で、ジョンと落ち合う。一階はいつも満車だし、店内直結通路のある五階も車が多い。三階あたりがちょうどいい。シルバーのボディが入道雲を映しながら走る。国産のセダンはおしゃれではないけれど、安心できる。 「美術館。フェルメールが何枚か来ているようよ」 「絵は好き?」 「あんまり」 「俺も」  

ベルリラメッセージ

「次の企画、お前やってみる?」 事務所の前で偶然会った奥村さんが、「あ、そういやさ」と軽い口調で言った。 あまりにも軽い口調でそう言われたので、言葉を理解する前に、目の奥でチカチカと何かが点滅するような感覚に襲われる。 「むむむ無理です私なんぞ…!」 結局、そのシグナルが何か考える前に口走っていた。 「そか」 あっさりと引き下がった奥村さんは、そのままドアを開けて事務所に入ると、それ以上は何も言わなかった。 ああ、でも、もし私があの企画をやるとしたら… 「無理です」

【小説】ハイボールで世界平和チャキチャキ教

郵便受けの中に、自宅の鍵がむき出しで入っていた。 手紙が添えてあるわけでもなく、プチプチで包装されているわけでもなく、ただ一本の鍵が底に置かれていた。 「不用心だなぁ」と私は一人呟いた。もし他の誰かが郵便受けを開けていたら、盗まれてしまったかもしれないのに。 ケイちゃんには、そういう想像力を働かせることはできない。 まだ小さな火が点いているタバコの吸い殻をゴミ袋に捨てたり、トイレットペーパーを乱暴に千切ったり、私が生理なのに気にせずセックスしようとする、ケイちゃんそん

【小説】雨上がり

雨が降っている。 こどもの頃から、雨がふると居場所がなくなるから嫌だった。 濡れるから、とか外で遊べないから、とかの理由ではない。 物理的に、居る場所がなかったからだ。 2009年6月1日 学校からの帰り道、私はいつもひとりだった。 友人がいないわけではなかったが、あえてひとりで帰るのを好んだ。 学校から私の家はわりと近く、誰かと一緒に帰るとなると「バイバイ」と手を振って玄関に入らないといけない。 「マイちゃんちで、ちょっと遊んでいっていい?」なんて声をかけられ

ゾウは自分の意思で虹をかける

「自分の意思で虹をかけるのって、人間とゾウだけなんだよ」 ある日、不意に話しかけられた内容は、妙にファンタジックだった。 彼は、言いながら黙々とゾウの絵を描いている。 「え、そうなの?クジラは?クジラも虹出すんじゃない?」 私は、思いついて、意地悪く否定する。 「クジラはさ、たまたま潮を吹いた時に虹がかかるんだ。でも、ゾウは、虹を出そうと思って水を撒くんだよ。それって、同じ虹でも、大分違う」 ゾウって虹がみえてるの? そう言うのはやめた。 彼の描く絵のゾウが、虹を作

高校の卒論で書いた小説をどうぞ。(10年前の自分へのダメ出し付き)

毎日続けていた400字小論文が一つの目標にしていた100枚目に到達しました! これも読んでいただいている方たちのおかげです。本当にありがとうございます。 前々から節目として、400字小論文とは別の何かを投稿したいなと考えていました。そしてふと、 「あ、そういえば俺、高校の卒論として小説書いてたな。」 と思い出し、それを投稿することに決めました。 しかし、決めたは良いものの10年近く前のデータなんて残っているのか? と抱いていた不安をよそに、昔使っていた8GBのUSBに

普通卒業

ただの社会人。ただの人。ただの男。何者でもない者が書くエッセイに、価値はあるのだろうか。 いや、価値なんかあるわけがない。何者でもない者が書くエッセイは、ただの日記と同じだ。 友達でもない人間の日記に興味が湧く人はきっと世界中で僕かどっかの物好きな変態くらいだろう。価値も需要もないのに、それでもなぜ僕は毎日エッセイを書き続けているのだろう。 それはきっと「何者かになりたい」という欲求を捨てきれていないからだ。社会の歯車として生きていく覚悟を決めたはずなのに、どうしても捨