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見えないはずの電波が見える…!?世界初のものづくりに挑む高周波アナログ回路マイスター【シニアエンジニア:黒田尚義さん】

エイターリンクが3月にリリースする中長距離ワイヤレス給電【AirPlug™️】には、最長17mの長距離ワイヤレス給電を可能にする世界初の高周波アナログ回路が組み込まれています。開発にいたるプロセスで熟練の職人技を発揮してきたのが、今回ご紹介する黒田尚義さん。目に見えない電波のふるまいを想像し、高度なシミュレーターでも完璧には割り出せないRLC(※)の最適なバランスを実現するインピーダンスマッチングや、量産に向けて組立性や生産性の向上を図るサンプル評価などを担当しています。(note編集部)

※RLC:抵抗、インダクタ、コンデンサ。エネルギーを蓄積・消費・放出する3大受動部品。

経験に裏打ちされた想像力が求められる開発設計の現場

黒田さんがエイターリンクにジョインしたのは2022年7月。FA専用受信機(※)の一次テストサンプルが上がってきたタイミングでした。

※FA:ファクトリーオートメーション。工場での作業や工程を自動化すること。

「私たちがいま開発しているのは、工場のロボットアームに取り付けられている数百から数千ものセンサにワイヤレスで給電できるFA専用受信機です。これまで有線でしか利用できなかった産業用ロボットをワイヤレスにできれば、断線に悩まされてきた工場の生産性は格段に向上し、CO2の排出量も大幅に削減できます。安定的で高い電力変換効率を実現するには、RLCのマッチング(整合)が極めて重要です」(黒田さん)

黒田さんによると、ワイヤレス電力伝送に必要な「高周波アナログ回路」は、電圧や電流の分布が均一ではなく、部品の物性や空間的な広がりにより、目に見えないところで様々な現象が起きるのだそう。そのため、経験に基づく「想像」を頼りに回路全体のマッチングをするという、簡単には言語化できない高度な職人技が求められます。

「これまで、どれだけ多くのデータを見てきたか。実際にマッチングの試行錯誤を重ねてきたか。経験がないと想像することは出来ません。私自身も自分一人の経験値には限界があります。常にメンバーと相談しながら進めてきました」

さらに、サンプル基板をコア材に巻き付けるはんだ付け作業を行いながら、組み立てやすさも徹底的に追求してきたという黒田さん。エイターリンクは自社工場を持たないファブレス企業のため、品質や生産性を磨いていくには、様々なパートナー企業との綿密なコミュニケーションが鍵となります。

「創業初の製品開発であり、コミュニケーションフローの設計もゼロからのスタートです。社内でスピーディーに改善が重ねられていく中、それぞれに違うコミュニケーションスタイルをもつパートナー企業の方々といかに最新情報を共有していくか。毎日が山あり谷ありですね」(黒田さん)

好きこそものの上手なれ。ひたすら数をこなす中で磨かれた技術

じつは黒田さん、大学時代は世界で初めて実用的な高輝度の青色発光LEDを発明したノーベル物理学賞受賞者の中村修二さんと共同研究を行い、卒業後は大手企業で2回も「世界初」の開発設計に携わり事業化を実現してきた類い稀なる経験の持ち主。いったい何をどう考えていけば、これまで世の中に存在しなかったものを実際に生み出すことができるのでしょう?

「まずは、『こういうものを作りたい』という完成品のイメージを具体的に描きますね。サイズは何ミリで…とか、消費電力を何%カットしたい…とか。次に、それを実現するためには何がキーになるか、いま足りていないものは何かを考えます。アナログ回路の設計は、デジタル回路との接続も含めて全体の整合性が問われるので、色々な部品の組み合わせを何パターンも試しながら開発を進めます」

以前在籍していた大手企業でも、他の人が手を出せないほど細かい作業を任されていたという黒田さん。手先の器用さをどのように磨いてきたのか尋ねてみると、小さいころ目覚まし時計を何個も分解して仕組みを探っていた……という微笑ましいエピソードも。

「やっぱり『好きこそものの上手なれ』ですよね。ひたすら数をこなしていく中で見えてくるものがあると思います。手先を動かしたり工夫を凝らすのが好きな人であれば、いつから学び始めても遅くはない分野ですよ」

一方で、学会発表や専門誌の特集など業界のトレンドをチェックし、常に知識をアップデートすることも大切だと黒田さん。広く浅く仕入れておいた情報が「想像」のヒントになるそうです。自分の手で生み出したものを世界中の人たちに使ってもらえるのならーー。そんなモチベーションが、黒田さんの原動力です。

幅広い年齢のスペシャリストが集うエイターリンク

黒田さんがいま感じているエイターリンクの魅力は、少数ながらも20代から50代まで幅広い年齢のメンバーが揃っていること。

「年齢が離れていると、アドバイスをしやすいし受けやすい。開発はトライ・アンド・エラーですから、お互いに学び合えるカルチャーは今後も大切にしていきたいです」

そんな黒田さんですが、仕事が終わって会社を離れると、頭の中をさっと趣味モードに切り替えるのだとか。

「釣りが好きなので、休日はよく海や川に行きます。見えない水面下で魚がどう泳いでいるのか、簡単には読み取れない動きを想像しながら釣るのは最高に面白いですよ。竹を継ぎ合わせて漆塗りで仕上げる伝統工芸の江戸和竿(わさお)も趣味で作っています」

材料や道具の選定、一つ一つの工程で基本を忠実に守る丁寧な作業。オンもオフも生粋の「職人」であることに変わりはないようです。

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