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例えば こんな家族 08

( この物語は 一部フィクションです )

・ 江戸 酒井家下屋敷 近く マンションに見えるアパート1F
母:歌手? 長女:彩の国で主婦 次女:フリーター

子供の頃から 母の帰宅は 遅かったと云うか 早かったと云うか
夜中に帰って来るか 明け方に帰って来るか だった

何故 母がそんな時間に帰って来るのかの疑問を持ち出したのは小学校3年生の頃だったと思う クラスメイトと話している時に夕食の話が出て その中で家族が食事をする話になった時だったと思う もう曖昧な記憶だ

5歳年上の姉と 2件隣の家のおばあさんに よくご飯を食べさせて貰っていた 中学生の頃に母がお金を払い食事を作って貰っていた事を教えられた

母は化粧をして細身の体にトレーナーにハイヒールと云う 不思議な恰好で夕方から仕事へ行っていた 別段 私自身は違和感が有った訳では無いがこれも中学生に入った頃に 母に偶然会ったクラスメイトに指摘され 変な恰好だと言われて あー そうなのか 変なのか と思っただけだった

彼女の声は女性にしては少しハスキーに聞こえる声だったけれど 子供の頃から私は彼女が歌ってくれる英語の子守歌が好きだった

英語では無くフランス語だという事を知ったのは 高校受験の頃に問題を解いていて 母に質問をした時に発覚した事だった

そう 私が彼女の職業をハッキリと認識したのは この頃だった様に記憶している 母は神楽坂のどこかでシャンソン歌手をしていたらしいと姉から教えられた

歌手と云っても歌うだけを生業としている訳では無く 接客業の合間に歌う程度だったと知るのは 私が大学生になった頃だった気がする

高校生の頃は 母の職業が何となく恥ずかしくて クラスメイトには何をしているか知らないが 飲食店勤務らしいと答えていた

私が大学生の頃に 母が若くして亡くなった 41歳の誕生日の前日

埼玉に嫁いでいた姉に連絡すると 慌てるふうもなく 分かった と言ってきてくれた
姉は私が高校生に成った頃には 早々に結婚し家を出て行き 母が亡くなるまでほぼ帰って来なかっただけだ

母の実年齢を知ったのもこの頃で 姉は母が中学卒業と同時に産んだ子供だと知った時には 結構 驚いたものだ
亡骸は細い体が もっと細くなり 枯れ枝と云う表現しかしようのない体に成っていた 確かに酒量が増えているなとは思っていたが 特に 不調を訴える事も無く ある日 ベッドの中で静かに冷たくなっていたから

顔を見る限り 母の人生は それなり幸せだったのだと思う

特段に母の事を 好きでも嫌いでも無かったけれど それなりには悲しかったし それなりには泣けた

姉が出て行ったっきりだったのは 別に親子や姉妹の仲が特別に悪かった訳では無かったと想うけれど 母が吸うタバコの匂いと仄かに漂うお酒の匂いが嫌いだったからだと 母の葬儀の後に姉から告げられた

もうすぐ 母の亡くなった時の年齢に成ろうとしている私は 謳うジャンルは違うけれど 母と同じような仕事をしながら 気ままな その日暮らしをしている

結婚もしていないし 子供も居ないし 友人も居ないし 貯金も無いけれど
割と幸せな人生なのかな とも思う


この時期になると 昔 住んでいた神楽坂のアパートに植えてあった金木犀の噎せかえる様な匂いと 母の姿を想いだす

有難う御座います                           将来の夢のために使わせて頂きます