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F1とインターンシップ

はじめに

イギリスのサウサンプトン大学でF1の空力エンジニアを目指している田崎です。「F1チームでインターン」と言う単語、F1を目指す学生なら、わたぽんさんのブログなどで1度は目にしたことがあるんじゃないでしょうか。僕も夏からとあるチームに1年間空力エンジニアとしてお世話になります。そこで今回はイギリスに来て知ったF1チームとインターンシップの関係について紹介します。

なおこの記事の内容は、完全な個人の意見です。また情報も網羅できているわけではないし、信憑性が定かではない可能性もあります。その上でご覧いただけると幸いです。

インターンの仕組み

イギリスでのインターンはIndustrial Placement、または単にPlacementと呼ばれます。応募の対象となるのは、イギリスの大学であれば2、3年生、より正確には、Placementの後に大学に戻り、1年以上勉強する義務がある学生です。Placement自体はF1チームだけでなく、市販車のロールスロイスやBMW、航空関連の会社なども積極的に取り入れています。

Placementは1年間続きます。いわゆる長期インターンのイメージです。F1チームへの就職の際には、実際の経験がある方が明らかに有利なため、placementを得ようと頑張る学生が多いです。1年間続かないものとしては、夏休み向けのSummer placementがあり、これは3ヶ月ぐらいある夏休みの間にPlacementをするというシステムです。F1ではこの記事を執筆している2023年においてはマクラーレンしかこの機会を公に設けているチームを知りませんが、Summer placementの有無は結構コロコロ変わってるみたいです。

応募時期

応募時期は夏から秋にかけて。早いチームだと8月ごろに公募が出ます。F1チームの場合、選考が年内に終わるスケジュールが多いので、8-11月の期間はインターネットを立ち上げるときに自動で各チームのキャリアページが開く設定にすることをお勧めします。ある日ばっと公開されます。

公開時期はLinkedInという就活用SNS的なサービスに登録しておくと見逃さずに済みます。どのチームもLinkedInでは必ず数回にわたってアナウンスをするので、登録しておくと便利です。LinkedIn以外にも、F1 careerみたいな名前のwebsiteに登録するのもありかと思います。

早めに出す方がいいって聞いたことがあります。

応募方法

履歴書とモチベーションレター(CVとCover letter)を出すのが第一ステップ。チームによっては第一段階の選考でテストを送ってくることもあります。その後は、第一段階通れば筆記試験や面接がある、という流れです。よくF1チームから採用される時は連絡が早い、と聞きますが、僕は第一段階はポジティブな内容でも最長で1ヶ月ぐらい連絡待ちました。

モータースポーツに関連するPlacementはF1チーム以外にも、多くはないですが存在します。例えばTotal simというCFD専門の会社やCatesby project。あとはGoodwoodを爆速で駆け抜けたMcMurtryなどもPlacementの機会を設けている、らしいです。こういった企業の応募時期は少しF1チームより遅いか、同じぐらいの時期です。

万が一F1チームのインターン選考に落ちても、諦めずにこういう機会を掴めた人がF1にも近づきます。実際、F1のインターン落ちたけどTotal simでPlacementして、RedBullから新卒のエアロのポジションのオファーをもらった先輩もいました。

インターンをすべきか

すべきです。なんならインターンからすでに選考が始まっていると言っても過言ではないでしょう。LinkedInでF1チームで働いている人のプロフィールを見るとPlacementをしてる人が大半です。みんなそれをわかってるから競争も熾烈になるし、F1ではなくともPlacementには行こうとする。新卒でF1を目指す場合、インターン経験の有無はかなり大きな差になります。

イギリスにいるべきか

チャンスを最大化するという意味ではイギリスが1番です。

イギリスの有名な大学にいると、遠方の学生と比べると学生のレベルが周知されているので書類選考では有利に働くことがあるかもしれません。 またチームによってはイギリスの学生を積極的に採用するチームもあるでしょう。

それに加えてVISAの問題もあるのでイギリスにいる方がいい、というのはあります。VISAは申請するときにまとまったお金が必要です。チーム側の書類仕事も増えます。優秀な人材にはVISAのお金負担するスタンスのチームもあると聞きます。ただ負担するお金は少ない方がいいし、書類仕事も最小限で済ませたい。そんな中でVISAが必要な学生を取るということは、それだけその人に魅力があるということなので、選考のハードルは少し高くなる気がします。それに面接に呼ばれるとイギリスに来ることになるので(オンラインで対応してくれるかもしれないけど)、イギリスにいることによる土地の理はあるでしょう。

ただ、イギリスにいないとインターン取れないというわけではありません。ではイギリス以外だとどこになるのか。大きく分けて、ヨーロッパ、日本、オーストラリアという選択肢に分類して考えてみます。

ヨーロッパの大学からPlacementを取得してイギリスに来る学生は多い印象。デルフト工科大や、ドイツの技術系大学、あとはスペインのバルセロナやマドリードの大学から来てる学生が多いです。みんな優秀。

日本の大学からF1のplacementというルートは少なくとも聞いたことがありません。CV、Cover letterの段階で落とされたり、英語で細かい理系表現を普段から使い慣れてないと、面接を切り抜けるのも難しいかもしれません。僕はイギリスに来て1ヶ月で面接の機会がありましたが、2回微分とか固有値みたいなちょっとした専門用語が出てこず困った記憶があります。

F1へのルートとして意外と知られてなさそうのがオーストラリア。オーストラリアからplacementに来る学生は少ないですが一定数います。なんならオーストラリアで修士や博士を取った後F1チームに就職というルートはたまに見ます。ソーラーカーやモナッシュ大学などの学生フォーミュラで空力のトップみたいな経験をしてる人が多いです。学費などを考えてもイギリスよりはオーストラリアの方が行きやすいかもしれない。イギリスより機会は少なくなりますが、日本からよりは格段に可能性が高いと思います。

選考は難しいか

個人の技量次第なので一概には評価できません。倍率としては僕の見てきた中では500-2000倍ぐらい。それに対して応募できるのは各チームなので6か7つ。複数のポジションを希望することができるチームもあります。

この倍率は数字だけ見るととんでもないけど、案外日本での文系就職などと比べても大差ないかもしれません。ただ問題なのは応募者の質。F1を目指す人たちなのでComputer scienceや工学系の“やる気のある人”と、専門性を競って勝ち抜く必要があります。

面接では、いかに大学できちんと勉強してるかを問われていた気がします。それにF1に対する知識(コース名や歴史)ではなく、純粋な専門性を問われます。例えばあるチームでは2階偏微分方程式解いて、と聞かれたりするらしい。

日本人は数学が得意な上に賢い人が多いので、英語が問題ない限りこのスタイルは有利ではないでしょうか。真面目に勉強してると案外さらっと通るんじゃないかと思ったり、思わなかったり。学生フォーミュラで自分より詳しい、あるいは同等レベルの知識を持った人たちと毎週議論をする、みたいな専門性を身につける環境があると有利になりそうです。

最後に

大学を卒業してF1チームに入るルートは、狭き門ではありますが、誰にでも公に開かれています。イギリスでないといけない、コネがないといけない、めっちゃ天才じゃないといけない、というわけではありません。大学できちんと勉強し、高いモチベーションを持ち、専門性に長けた人材をF1チームは欲しています。

この記事を読んで、誰か1人でもPlacementに挑戦、そして選考を勝ち抜く人が出てくるといいなと思います。

と偉そうに連ねましたが、僕もまたF1エンジニアを目指す1人。それもスタート地点に立っている大勢の1人に過ぎません。なのでこれからもどんどん専門性を高めていく努力をしていきます。

読んでいただきありがとうございました。

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