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エレティコスの翼 第9話(最終話)

数日後、オリーブ畑へやってくると他の民衆も収穫の手伝いをしたのでミヌも早速オリーブの木の実を摘んでいった。

「やあミヌ、調子はどうだ?」
「この通り元気ですよ。今日は人が多いですね」
「これから書き入れ時になる。みんなで摘んだら市場でどんどん売っていくからな」
「塩漬けもいいが、やっぱりワインに合うんだよな。万能な食材だから人気もあるしさ。ここの領地の産物はどれも鮮度抜群だしな」
「あんたたち!わちゃわちゃしていないで手を動かしなさいよ!」
「ああ。なあ、そういえばジアはどうした?」
「えっ?来ていないの?」
「たしか隣のぶどう畑にいっているみたいだよ。ミヌ、見てきてもらってもいいかしら?」
「はい。行ってきます」

そこから数キロ歩いたところにあるぶどう畑の敷地の中に入っていくと、土地の真ん中あたりで誰かが一人で空を見上げていたので駆け寄っていくとジアがいた。

「ジア!……ここにいたんだね」
「ミヌ。あなたもここに来たの?」
「向こうでみんなが待っているよ。収穫が終わる前に戻ろう」
「もう少しここにいたい。……ここから吹く風がとても心地が良いの」

山間部から吹く南東の風に二人はしばらく浸っていた。その風にぶどうの実やつるが揺れて香りが漂っていき雲の流れも次第に加速をつけるように流れていった。
ジアはしばらく黙り込んでいたのでミヌが顔を覗くと振り切っては走ろうとしていたので彼女の腕を掴んでその身を止めた。

「僕、ジアに言いたいことがある」
「……何?」
「ここ数年ずっと一緒に仲良くしてくれていたじゃない?今度はさ……君のご両親に改めて挨拶したいことがあるんだ」
「それって何の告白?」
「僕……いや、俺さもっとこれからシアンやユルのように強い男になるんだ。たくさん勉強もして体力も鍛えていきたい」
「それから?」
「ええっと、ジアとも馬で一緒に乗って海とかにも連れていきたいんだ。もっと広い世界を知って一緒に……一緒に……」
「一緒に?」

「一緒になる。ジア、俺とけっ……結婚をして……いただきたいの、です」
「ちょっと!目を見て話しなさいよ。ほら、こっち向いて。もう一度言って!」
「だから、俺と結婚してください!……もういいだろう?これ以上言わせないでよ……」

「自分から言っておいて照れないでよ。……はい、一緒になりましょう。私も、あなたとまだ見ていない世界を知りたいわ」
「みんなのところに戻ろう。ほら、手を貸して」

二人は手を繋いでぶどう畑を走り出していき、再びオリーブ畑に戻ると皆と一緒に収穫した実を選別して、市場に出す実とオリーブ油として搾油する実に分ける作業にあたっていった。

それから翠の領地には長い冬の季節が訪れて、民衆は寒波に備えて支度を整えていく。市場の中央には聖樹が備えられそこに来た民衆は一年の終わりに感謝をして年を越し、新しい年の始まりとともに黎明の明ける頃に、昇る陽に向かい国の和平と豊年満作を祈願していった。

雪解け水が小川に流れていき春の息吹が領地に吹いてきた頃、ミヌはジアとの婚約の報告を母やシアンたちに告げ、その後皆で彼らの祝杯を称える儀が執り行われた。二人はオリーブの丘から見える海に出かけて、そこからの眺望を一緒に見渡していった。

「私達が二十歳になったらこの国がもっと豊かになっているように祈っていたい」
「諸外国の紛争はまだ終わらないみたい。それでも俺たちの国はどんな所よりも美しい国であるように、みんなで守り抜いていこう」
「ミヌ。あなたのお父さんと約束した事、忘れないでね」
「え?何……だろう?」
「しっかりしてよ。いつかこの領地で愛する人と巡り会い一緒になったら、お父さんのようなリーダーを目指すんでしょう?」
「ああ、そうだよ。貧しい人たちを一人でも多く救って共にこの領地を育てていくんだ。ジア、こんな俺だけどどんなことがあっても何もない日でも一緒に生きていける?」
「ええ。私も子どもたちに色々な事を教えていきたい。いつまでもこの自然が続いていけるように私も闘っていくわ」

皆の歩く道に優しい花が咲くように、いつの日も平穏であるように、二人は強い絆を結び交わして新しく建てた居住へと帰っていった。

《了》

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