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エレティコスの翼 第6話

一週間後の夕刻、シアンを筆頭にユルとソウは家臣と民兵、ソヨンは朱の領地の兵士を連れて翠の領地を出発し、民衆がその列を見守るなかミヌはジュノとスアと一緒に彼らを見送っていた。馬で走らせること四十キロ先の領地の境界へ着き、辺りが暗くなってきたのを見計らい、蒼の領地の中心部に差し掛かったところで、要塞のところから敵兵が一斉に出てきた。
シアンたちは一気に馬で駆け寄っていき攻撃する兵たちを次々と刺殺しては、味方の民兵も負傷していった。その間にシアンはソウとともにソジンの本陣を攻めていき、本殿の中に侵入していき襖を開けてはスヒョンの名を呼び掛けていったがどこにも見当たらなかった。

「どうだ、いたか?」
「ダメだ。どこにもいない。どこかにかくまっているだろうな」

その時だった。馬のいななきがしたので表へ出てみると小柄の甲冑をまとった人物が馬から降りて彼らに向かって重たいかぶとを脱いだ。

「……!ミヌではないか。お前領地に留まれと散々言っただろう?なぜ来た?」
「お母さんを探しに来た。やっぱり黙っていられない。もうここまで来たら引き下がるなんてしないさ」
「シアン、どうする?」
「仮にここの領地で戦死しても誰もお前を讃えることはしない。それでもいいのか?」
「一人でも多く兵は多くいた方がいい。お願い、ソウと一緒に探して領地に連れ戻したい」

するとその間に数人の敵兵が家屋を囲んで何かを仕掛けようとしていた。

「何かの匂いがする……二人とも、奥の間に逃げろ!」

その瞬間、爆薬が中に入ってきて火花を散らし一気に爆発した。その風烈で身体が跳ね上がりミヌは壁に打ち当たった。

「大丈夫か?立てそうか?」
「うん。ソウは?」
「大丈夫よ。今、シアンが表の敵兵と戦っている。私達はここから裏口に逃げる。行こう」

裏口へ出ると敵兵が生き倒れていて足元を掴みかかるとソウは思いきり蹴飛ばした。シアンの姿が見えて声をかけると彼も近寄り馬にまたがると、三人はそこから立ち去っていった。森の茂みへとやってきて馬から降りるとうめき声を出したシアンが跪ひざまずいたのでソウが見てみると左腕に刀で切られた痕がついていた。

彼女が手当てをしているとどこからか赤子の鳴き声が聞こえてたので、ミヌはその坂を登り、とある小屋に明かりがついたので扉を開けると、十数人の女性が怯えながらこちらを見ていた。シアンとソウも駆け寄るとこの中にスヒョンという女性はいないかと訊くとその一番奥の隅にいる人物がこちらを見てきた。

「お母さん?」
「ミヌ……ミヌなの?」

ミヌは人の間をくくり抜けてスヒョンに近づいていくと、一歳児の子を抱える彼女のひざ元に座った。

「お母さん……良かった。無事だったんだね」
「私を探していたの?」
「そうだよ。もしかしたらソジンのところにいるのかと思って本殿までシアンとソウと一緒に見てきたんだ」
「このような戦地になっている危ないところをあなたのような少年が来るなんて……でも、元気そうでよかった」
「ご無沙汰しています。今日はスヒョンさんと皆さんを助けに来ました」
「シアン、ソウ。二人ともここまで来て大変だったでしょう」
「私達はとにかく、皆さんをここから連れていきます。中心地は激化しているので隣接している朱の領地まで案内します。怪我をしている人はいませんか?」
「ええ、大丈夫よ。みんな歩けるわ」
「こちらです。さあ行きましょう」

ソウが筆頭になり彼女たちを境界まで連れていくと、シアンとミヌは本地に戻りソジンの在処を探しに行った。翠の領地の兵士がシアンに駆け寄り本陣でとらえたソジンの元に案内すると言い、要塞の手前にある地に着くと捕らえられているソジンの姿があった。

「シアン。こいつらが俺を捕らえても殺さないのだ。首を切れと言っても微動だにしない。何を考えている?!」
「そなたに願い出たい事がある」
「なんだ?」
「陛下はなぜお前の企てた占領下の話を承諾したのだ?」

「黄の領地の祖先は遥か昔、この国を支配下に置いて自分たちの勢力でもってこの国を破滅にまで追い込もうとした。その血筋が流れているお前たちの家門の命を絶てば、私がこの国のリーダーとして占領することを許してくれた。だが、民衆はそれを受け入れてくれずに俺を敵対視するようになっていったので内戦でもって領地の中を破壊していった」

「そんな人間に誰もお前になど味方などするものか。リーダーが独裁してもこの国を豊かに生かそうともできると想定しても反逆される。欧州の独裁国家など真似でもしてみろ。人々は愚かになり崩壊していくだけだ」
「国のために武力強化をしなければ諸外国にやられてしまう。米国にはどれだけ圧力をかけられているか、お前もわかっているだろう?」

「俺たちが一丸となって手を組まなければ当然諸外国に負けてしまうのは確かだ。ソジン、降参をしてくれればこの蒼の領地の体制と整え直して新しい国家をともに作っていくことは考えてくれないか?」

「領地のリーダーが変わってもこの国はますます衰退するばかり。お前は綺麗ごとばかり並べているからいつまで経っても勇姿ある長にはなれん」
「ではなぜ他の領地より翠の領地に優れた人材が多いのか知っているか?」
「どういうことだ?」
「ここは諸外国との貿易もさかんで出入りする異国民にも好かれている。それだけ人や物の資源が豊富で異国の地にも頼られている。その地をお前の手によって奪われてしまったら、それはおろかこの国の失態にもなり兼ねんぞ」

「くっ……!」

「お前は我々の地に投獄させてしばらく様子を見させてもらう」
「首を獲ることはしないのか?」
「ああ。この状態ならどんなに天下を取ろうという事をしても何の利益にもならん。さあ、立ち上がれ。一緒に連れていくぞ」
「シアン。本当にそれでいいのか?」
「ああ。彼に生き地獄を見せてやろうじゃないか。これまで数え切れないほどの命を消し去っていったものかを牢獄で思い知らせてやる。皆のもの、引き上げるぞ!」

彼を取り巻く歓声が鳴り響いていくとミヌはそれを見てシアンの勇姿を目を輝かせながら実感していた。

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