三体（１部）：マニアックで斬新なSF【一部ネタバレ有】
※ネタバレの前にはノーティスあります。
Netflixがドラマ化を決定して話題に火がついた「三体」。
世界中で翻訳版が出版されるなか、日本では一歩遅れがちに出版された。
現地中国では３部作すべて出版済みで、本作品は様々な賞を受賞している。
１部：三体
２部：三体Ⅱ黒暗森林
３部：三体Ⅲ死神永生（日本では未発売、２０２１年春～夏に発売予定）
マニアックで斬新な理由
「三体」は、科学世界の専門用語であふれている。
特に多く使われるのは物理学や宇宙学の専門用語だ。それはこの本がSFだからに他ならないが、一般的なSFに比べてずっと具体的な意味で専門用語が使われる。
そんな本、研究者しか読まないのでは？ と眉をひそめそうになるが、実はそんなに専門知識がなくとも読める。なにせ、私が読めるのだから。
作者もちゃんとそのあたりに配慮して、適切な補足を分かりやすく入れながらストーリーを進めている。
斬新な理由は、SFとファンタジーが絶妙にブレンドしているところ。
そもそもフィクションの小説にはある程度のファンタジー要素があるものだが、大体の場合はその作品の時代設定だったり世界観だったりにマッチする形でファンタジー要素が混ぜてある。AIが支配する世界にいきなり魔法使いが登場したり、宇宙戦争が勃発しようかという世界でいきなり農耕民族にスポットが当たることもない。あまりにも世界観にミスマッチだからだ。
が、「三体」には、読者が一瞬戸惑うようなファンタジー要素が存在する。
このファンタジー要素について知りたい方は、「【ネタバレ】斬新なファンタジー要素」のパートを読んでみてほしい。
著者：劉慈欣（リュウ・ジキン）という人
中国のSF作家。
本業はエンジニアで、現在も発電所のコンピューター管理に従事している。
中学生の頃から執筆を始め、１９９９年に中国のSF雑誌でデビュー。
エンジニアだけあって、その手の専門知識も作品で存分に活かされている。
コンピューター管理の仕事をしながら長編小説を書き上げるというパワー、恐るべし。
１部のあらすじ
物語は中国の文化大革命時代から始まる。
中国の歴史に詳しくなくても読み進められるので、安心してほしい。日本にも学生運動や全共闘運動が激しかった時代があるので、そのイメージが重なる人もいるだろう。
ちなみに、文化大革命時代とはコチラ↓
文化大革命のせいで父を惨殺された、あるエリート科学者が、巨大パラボラアンテナを備える秘密軍事基地での「ある業務」にスカウトされる。この軍事基地で行われていたプロジェクトは、人類の未来を決定的に左右するものだった。
このエリート科学者のストーリーをすべて語り終えないまま、時代は一気に数十年もジャンプし、あるナノテク研究者のストーリーに替わる。このストーリーとエリート科学者の秘密プロジェクトのストーリーは、後々つながってくる。
ナノテク研究者のストーリーでは、世界中の有名な科学者が次々と自殺していく事件の調査メンバーにその研究者がスカウトされるところから物語が始まる。
その調査に参加して間もなく、非科学的な怪奇現象に襲われた研究者は、調査に身を沈めるうちに事件の真相を知っていくこととなる。
１部でちゃんと答えが提示される疑問
この小説は３部作なので、１部で抱く疑問の答えが１部内でしっかり解答されるものと、２部以降に解答が持ち越されるものとある。
＜１部内で解答される疑問＞
・文化大革命時代のストーリーと、数十年後のナノテク研究者のストーリーは、どう関係するのか？
・秘密軍事基地で行われている、人類の未来を決定的に左右する「プロジェクト」とは？
・有名な科学者が次々と自殺していく事件の真相とは？
・ナノテク研究者を襲う「非科学的な怪奇現象」の真相とは？
など。他にも１部で抱く疑問は色々あって、その解答がちゃんと提示されるものもあるが、ネタバレになるので気になる方は本記事のネタバレ部分をチェックしてほしい。
＜２部以降に解答が持ち越しされる疑問＞
・人類の未来は一体どうなる？
・文化大革命時代のエリート科学者はその後、どういう道を進む？
・ナノテク研究者はその後、どういう道を進む？
などなど。
３部作なので、すべての疑問が解消されるはずはない。
タイトルの「三体」の意味とは
SFなので「三体」の意味も科学的な要素が思いっきり絡んでくる。
この作品の「三体」には、大きく２つの意味が含まれているが、そのうち１つは完全なるネタバレになってしまうので、こちらについては本記事のネタバレ部分で言及したい。
ネタバレなしに説明できる１つの意味は、ニュートン力学の「三体問題」だ。
めちゃハードルが高そうに思える「三体問題」を無知な私にも分かりやすく解説しているTED動画を見つけたのでシェアしたい。
この三体問題がストーリーにどう絡んでくるかは、本を読むか、この記事のネタバレ部分をチェックしてみてほしい。
【ネタバレ】斬新なファンタジー要素
専門用語がたくさん出てきて、文化大革命の時代背景や科学的な要素などかなり現実に沿った世界観で話が進んでいくと思いきや、途中から驚きなファンタジー要素が舞い込んでくる。
それがタイトル「三体」の意味の１つでもある、「三体世界」の存在だ。
「三体世界」とは、地球のある銀河系からはるか彼方に位置する別の銀河系に存在する世界。その世界には、地球に生きる人類のように知性を持った「三体人」が、とある惑星に住んでいる。
三体人が住む惑星は、地球と違い、生物が生きるには過酷すぎる環境だ。その過酷な環境に起因する問題として、「三体問題（ニュートン力学）」が説明されている。
この「三体世界」や「三体人」の何が斬新なファンタジー要素なのか？
それは、そのユニークな特徴にある。
その惑星の過酷な環境に耐えるため、「脱水」という全身の水分を抜いてペラペラの紙のように変身するスキルを身につけた三体人。三体文明の滅亡と芽吹きを何度も何度も繰り返す三体世界。三体世界から送られるスパイ＆妨害工作担当の「AI智子」。
現実感あふれるストーリーの中に、いきなりこういった強烈なファンタジー要素が投げ込まれるのだ。読みながらファンタジー要素を見つけ今後の展開を推測している読者としては、一気にテンションが上がる。
【超ネタバレ】１部のあらすじ（読まずに内容を把握したい人へ）
舞台は中国、文化大革命時代。
天体物理学専攻の女子大生、葉文潔（イエ・ウェンジエ）は、物理学教授である父が不条理な批判を受け大衆の前で惨殺される様子を、ただ見守ることしかできなかった。この出来事から、文潔は人類に対し希望を失う。
天体物理学の才能があった文潔は、その後、軍の極秘プロジェクトを担う「紅岸基地」へスカウトされる。その極秘プロジェクトとは、宇宙に存在する知的生命体を探すというものだった。
偶然にも知的生命体の存在をたった一人感知した文潔は、自身の持つ知識を駆使し、誰にも知られることなく知的生命体へ向け「人類は他の誰かに導かれる必要がある」とメッセージを送信する。
※この知的生命体こそ、のちに人類の脅威となる「三体文明」だった。
そして時は数十年ほど一気にシフト。
ナノテク素材の研究者、汪淼（ワン・ミャオ）は、ある日とつぜん各国の防衛関連者が集まる会議に招かれる。その会議で「世界中の著名な科学者が次々と自殺している」事件の捜査のため、「科学フロンティア」なる組織に潜入するよう依頼される。汪淼は組織に違和感なく潜入できる候補者だったのだ。
科学フロンティアに潜入した汪淼は「目の前に数字のカウントダウンが現れる（が他の人には見えない）」という怪奇現象に襲われるようになる。これまで自殺した著名な科学者たちも、この怪奇現象に襲われたのち自殺したのだった。
同時期に知ったVR（バーチャル・リアリティ）「三体ゲーム」の中にその怪奇現象をストップさせる鍵があると知らされ、ゲームクリアに勤しむ汪淼。
ところが三体ゲームは、なんと、あの文潔がコンタクトに成功した遥か彼方にある三体文明への理解を深める、再現ゲームなのだった。
三体ゲームの開発者「地球三体組織」は、人類に幻滅した人々が結成した組織。トップはあの文潔だ。三体ゲームは、同じく人類に幻滅した同志を勧誘するために作られたものだった。
文潔とのコンタクトに成功した「三体人」は、文明の滅亡を繰り返す過酷な環境を捨て、新天地を求めて地球を侵略するために三体世界を出発する。
三体人はAI智子（ソフォン）という超極小の粒子を地球に前もって送り込み、科学実験を行う計測器などのコントロールをAI智子が掌握することで、人類の科学技術発展を頭打ちすることに成功したのだった。
地球三体組織とAI智子の思惑を知った汪淼は、史強（シー・チアン）警察官と多国籍軍（対三体人のために結成された軍）の助けを借りつつ、地球三体組織に壊滅的な打撃を与えることに成功する。
組織のリーダーである文潔は逮捕されるが、三体世界を出発した三体人たちの宇宙船１０００隻は、今も地球に向かって進み続けている。
AI智子によって科学技術の発展を頭打ちされた人類に、来るべき三体人との宇宙戦争に勝ちうる作戦は残されているのか？
１部のストーリーはここで終わり、２部へ続く。
※あらすじを超簡潔に分かりやすく書くため、登場人物は最低限の数しか言及していない。
とても複雑で奥が深いストーリーだが、よくよく細部まで練られたものだというのが読めばわかる。
私にも読めたので、決して敷居は高くない。とはいえ読むのに時間はかかるので、３部が出版されるまでに、１部と２部を読んでみてはいかがだろうか。
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