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溶融しないアルミめっき

「めっきでアルミつけられる?」

先日仕事中の雑談の中で出た疑問です。

アルミのめっきで一番に頭に浮かぶの、溶融めっきのイメージで、その次に「スパッタもドライめっきっていうなぁ」と思う程度でした。

銅やニッケルのように、常温に近い温度帯で大気雰囲気中で出来るめっきは聞いたことがなかったので難しいイメージを持っています。

そんなことを思っていたら、表面技術2022年3月号で見つけました。

「乾燥空気中のジメチルスルホン欲を用いたアルミニウム電析」

 著者は京都大学の三宅さん、平藤さんで、令和3年度の論文賞の業績のようです。 

そもそもなぜアルミのめっきが難しいかというと、標準電極電位が低すぎるためです。
標準電極電位については理解不足ですが、要するに、アルミをめっきしようとしても溶媒となる水の反応(還元、分解)が優先されてしまうらしいです。

だったら水を使わなければいいということで、イオン液体や有機溶媒を用いたアルミめっき技術が、これまでも研究されていて、きれいに電析させる技術はあるようです。

ただ、これにも欠点があって、アルゴンや窒素などの不活性ガスの中でないと上手くいかないそうです。
アルミめっきのメリットである、「真空を使わない」「常温付近で利用できる」というメリットを完全に打ち壊してます。
これなら少しコストアップしてもスパッタ等の真空成膜を使って高品質な膜を作ったほうが、トータルでは安くてよいものができるでしょう。

この欠点を解消するために、大気雰囲気でのアルミめっきを研究したというのがこの論文です。

著者の取り組みは以下の2点です。

1.除湿した空気(露店ー60℃)の中でアルミめっき
 大気中でめっきができない原因は湿気です。アルミめっきの主要成分であるAlCl3は吸湿しやすいためです。「水が使えない」という部分の対処方法を、不活性ガスではなく除湿した空気でやってみたということです。

2.添加剤を使って電析品質
 上記対策だけでは、膜にスジや穴や傷のような模様ができてしまうので、添加剤で膜質を改善ています。
(穴や傷は不活性ガス中では発生しない現象なので、大気由来の溶存酸素が原因で不純物がワーク表面に付着するらく、不純物の付着を抑制する添加剤を用いているようです。)

2つの対策で、不活性ガス中のアルミめっきと同等の膜質が得られた、これまでの方法よりも実使用として現実的なプロセスに近づけた、というのが結論でした。

感想

なるほど、凄くわかりやすい。一瞬、「使えそうだな」と思いました。
ただ、気になったんでは「露点-60℃」というところです。

露点の理屈はあまり詳しくなかったので調べてみると、飽和水蒸気圧に換算すると200Pa以下で、大気中の水分が0.2%以下の状態になっているようです。

そんなカラカラ状態を維持するのって現実的なんでしょうか?
少なくとも町工場的なめっき屋さんでは難しいでしょう。

文中では、半解放で使用できるかも、と書いてますが、イメージとしては半導体装置のように出来るだけ小さいスペースだけ乾燥空気にして運用できるような環境が必要になると思います。

そうなると真空装置に比べればコストダウンになるものの、やはり設備投資は大きくなりそうだし、それなりの規模の企業が関わらないと導入は難しいですね。

そういう意味では、これからの技術ではあるものの、実用化に向けてはかなり進んでいきそうな印象を受けました。
今からでも会社で提案して将来のニーズに備えるのもありかなと思いました。

以上です。

<<後から見つけた参考記事>

https://www.kptc.jp/mtc/wp-content/uploads/2021_autumn-19_20.pdf


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